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「全農みやぎは、どうして大量の米を在庫に残すことになったのでしょうか。全農いわてと比べると、在庫処理に失敗したという印象が拭えません。実際、マンレポの数字を追っていると、全農みやぎは、新米への切り替えのタイミングでライバルの全農いわてに売り負けたことを裏付ける数字が出ていますよ。明確な販売戦略の失敗ではありませんか。Aさんが指摘したように、全農みやぎは20年産の販売で大きな赤字を出したはずですよ。赤字を埋め合わせるため、概算金を大きく下げたというAさんの主張は、その通りではありませんか」
この指摘には正面から答えてくれなかったが、「他産地での過剰作付け、全農みやぎとして業務用に特化したことが…」という説明が戻ってきた。口が裂けても販売戦略の失敗と言えない事情が組織内部にあるようだ。
販売戦略の失敗を表にできない事情
阿部米穀部長の電話取材の翌日、全農みやぎの赤字を心配する農業法人代表からマル秘情報が飛び込んできた。
「20年産の県域共計(前ページコラム参照)による売買損は1俵650円らしい。在庫急増による保管料も半端じゃない。それを含めると同1000円は超えてしまう。全農みやぎはどうやって赤字を処理するんだろう」
1俵650円という金額を知らされて、思わず膝を打った。全農みやぎの概算金が、全農いわてより500円も安かったのは、やはり共計赤字を反映したものであったことが、その数字でほぼ裏付けられたからだ。
疑問が浮かんだのは、まずAさんの指摘に、なぜ阿部部長が事実とは違う説明で即座に否定したのか。次いで筆者が、阿部部長のAさんへの説明が事実ではないと全農いわてへの取材で裏付けたことに、なぜいきなり激高したのか。
全農みやぎとしては、みずからの販売戦略の失敗で県域共計の赤字を絶対に認めることができない事情があった。損失が巨額になり、国に損失を押しつけて急場を切り抜けようと考えていたからだ。そのためには販売戦略の失敗を絶対に認めることはできない。すべてはコロナ禍による需要減に押しつけて国と交渉する作戦に影響が出ることを恐れたからだ。
Aさんは、概算金の大幅引き下げに農家の不満を代弁すれば用が足りると思って電話しただけなのに、阿部部長はわざわざ説明の電話をかけてきた。これは異例のことだった。
Aさんの指摘が図星だったので、販売戦略の失敗説がどれだけ現場で浸透しているかを探るために電話をかけてきたのかもしれない。失敗説が浸透すれば、20年産米の共計赤字を国に飛ばす目論見が崩れてしまうことを恐れたのだろう。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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