記事閲覧
阿部部長の「全農いわての誰がそんなことを言ったのか」という絶叫に等しい逆質問は、いまでも耳にこびりついている。20年産米の県域共計の損失を国に飛ばすことで全農県本部間に、ある種の談合があったことをうかがわせる過剰反応ぶりだった。
阿部米穀部長にとって痛恨の極みは、筆者によって取材をかけられて過剰反応したことである。ここまで明かされることはなかった。そして概算金と県域共計赤字の闇の部分にも光が当てられてしまった。
県域共同計算の内容については、どの全農県本部も組合員に公表していない。販売赤字をいくら出しても、責任が自分たちに及ばないようにしているようだ。そうすることによって、赤字を農家や国に押しつけることを可能にしていたのだ。
概算金で損失飛ばし赤字拡大に
阿部部長に取材する10日ほど前に、東北某県の県域共同計算の収支報告書を入手することができた。「令和2年産連合会委託米 うるち米共同計算収支報告書(酒造好適米除き)」と題したB4大の一枚のペーパーに横書きにした書類(右表)だ。
巨額の販売赤字を出した全農みやぎが、どれだけ経営努力をしているかを探るため、阿部部長への取材では、この収支報告書を参考にしながら、いくつか質問を放ってみた。
その収支報告書でまず目を惹くのは、支出項目の支払運賃だ。産地から消費地の米卸などへの輸送運賃。1俵当たりの単価での表示もある。ざっくり感でマーケットの競争価格より2割近く高い印象を受けた。全農みやぎなら支払運賃は8億円ぐらいになるはずだ。非礼を弁えず阿部部長に、単刀直入に質問してみた。
「全農みやぎのことだから、系列の運送会社・全農物流を利用されているのでしょうね。ホームページを拝見する限り、宮城県内の事業所には自社トラックがないので、消費地へは下請けのトラック便を使っておられると思います。そのトラック便の競争価格をお調べになられたことがありますか」
答えは、ノーだった。県本部なので全農が指図するトラック便の使用を半ば義務づけられているようだ。そこで他産地で耳にしたエピソードを披瀝しておいた。
「秋田では、JAと直接取引する大手米卸が、共計で設定された輸送運賃の高さに根を上げて、置き場渡しの条件に変更してもらい、その米卸が指定する運送会社に運ばせているようですよ」
高圧的な反応があるかと身構えていたが、なぜか「へぇ~」と感心するような受け答えにかえって拍子抜けしてしまった。
会員の方はここからログイン

土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2020/12/17)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2020/08/07)
