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【スマート・テロワールの実践者たち】
コンビニでも地元産小麦を使ったパン 茨城県で起きた奇跡のコラボ 鳥山雅庸氏(株)リバティーフーズ/染野実氏(有)ソメノグリーンファーム(茨城県)
- 藻谷浩介
- 第10回 2021年11月29日
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そんな中、2021年のこの秋、茨城・栃木・福島3県のセブン-イレブン全店で、茨城県産の小麦を使った4種類のパンが発売された。大手コンビニエンスストアで、小麦主産地北海道以外の地元産小麦を原料とするパンが販売されたというのは、食品流通史に残る快挙ではなかっただろうか。
実現の背後には、高品質のパン用小麦を、安定供給できるまでに研鑽を重ねた地元生産者グループがあった。コンビニ向け商品にも国産小麦を使おうとの、高い志を持って粘り強く事業を推進した、地元製パン事業者があった。その両者の固いタッグに加え、輸入小麦に比べれば微々たる量の国産小麦の製粉に、敢えて協力する製粉業者がいたこともカギだった。
あなたの住む場所でも、同様のことができないだろうか。以下がご参考になれば幸いである。
コンビニの棚は、厳しい競争のバトルフィールドだ。顧客の手に取ってもらうための競争、価格競争、そして高度な品質管理の競争。欠品で棚が空くことは、店側としては最も避けたい事態であり、同じ質の品を大量に安定供給できることが、棚を勝ち取るための必須条件となっている。
これを逆にいえば、「今だけ」「当地だけ」を売りにするような商品は、そもそも棚に並びにくい。生産量が限定され、供給が安定しない地元の農産物を使った食品を、コンビニで取り扱うのは、なおさら難しいだろう。
他方で日本の消費者には、旬のもの、当地のものを食べたいというニーズも根強くある。そうした嗜好を持つ消費者をも取り込むという戦略の重要性は、コンビニ側でも高まっているはずだ。さらには、フードマイレージの低減や、食料自給率向上といったCSR(企業の社会的責任)の観点からも、そして輸入食料価格の値上がりリスクをヘッジする意味でも、地元産食材の採用は、コンビニとしてもできる範囲で追求していきたいテーマだろう。
ということで第一のカギは、使用に耐える品質の食材を安定供給できる生産者がいるかどうかだ。そして第二のカギは、これも同等の難条件なのだが、コストダウンの要求の厳しい中で、地元食材を使う意欲のある加工業者が存在していることだ。しかもパンの場合には、製粉と製パンと、2業種からの参画が必要になる。輸入小麦を使う定番の流れを外れた途端に、品質管理の面で新たな課題も続々登場する。
それらの諸条件を、高い情熱を持ってすべてクリアしたのが、今回紹介する茨城県での挑戦だった。
国内の小麦需要は年間600万t弱で、米の需要(700万t強)に近い水準だ。しかし国内の田園風景を見れば明らかなとおり、小麦とコメでは作付面積に大きな違いがある。小麦の自給率は15%程度で、しかも国産小麦の3分の2が北海道産だ。茨城県内の小麦生産量は、大正時代には全国一だったが、現在は全国の1%少々である。
実現の背後には、高品質のパン用小麦を、安定供給できるまでに研鑽を重ねた地元生産者グループがあった。コンビニ向け商品にも国産小麦を使おうとの、高い志を持って粘り強く事業を推進した、地元製パン事業者があった。その両者の固いタッグに加え、輸入小麦に比べれば微々たる量の国産小麦の製粉に、敢えて協力する製粉業者がいたこともカギだった。
あなたの住む場所でも、同様のことができないだろうか。以下がご参考になれば幸いである。
国産小麦パンを当たり前に茨城県から始まった挑戦
コンビニの棚は、厳しい競争のバトルフィールドだ。顧客の手に取ってもらうための競争、価格競争、そして高度な品質管理の競争。欠品で棚が空くことは、店側としては最も避けたい事態であり、同じ質の品を大量に安定供給できることが、棚を勝ち取るための必須条件となっている。
これを逆にいえば、「今だけ」「当地だけ」を売りにするような商品は、そもそも棚に並びにくい。生産量が限定され、供給が安定しない地元の農産物を使った食品を、コンビニで取り扱うのは、なおさら難しいだろう。
他方で日本の消費者には、旬のもの、当地のものを食べたいというニーズも根強くある。そうした嗜好を持つ消費者をも取り込むという戦略の重要性は、コンビニ側でも高まっているはずだ。さらには、フードマイレージの低減や、食料自給率向上といったCSR(企業の社会的責任)の観点からも、そして輸入食料価格の値上がりリスクをヘッジする意味でも、地元産食材の採用は、コンビニとしてもできる範囲で追求していきたいテーマだろう。
ということで第一のカギは、使用に耐える品質の食材を安定供給できる生産者がいるかどうかだ。そして第二のカギは、これも同等の難条件なのだが、コストダウンの要求の厳しい中で、地元食材を使う意欲のある加工業者が存在していることだ。しかもパンの場合には、製粉と製パンと、2業種からの参画が必要になる。輸入小麦を使う定番の流れを外れた途端に、品質管理の面で新たな課題も続々登場する。
それらの諸条件を、高い情熱を持ってすべてクリアしたのが、今回紹介する茨城県での挑戦だった。
高タンパク強力粉需要と本州以南の気候のミスマッチ
国内の小麦需要は年間600万t弱で、米の需要(700万t強)に近い水準だ。しかし国内の田園風景を見れば明らかなとおり、小麦とコメでは作付面積に大きな違いがある。小麦の自給率は15%程度で、しかも国産小麦の3分の2が北海道産だ。茨城県内の小麦生産量は、大正時代には全国一だったが、現在は全国の1%少々である。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
山口県生まれの56歳。(株)日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114ヶ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行っている。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』 (共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。近著(共著)に 『進化する里山資本主義』 (Japan Times)、『東京脱出論』 (ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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