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新・農業経営者ルポ

国産アップル・ブランデーを製造・販売 津軽・五所川原市に蒸溜所開業

青森県五所川原市に青森県産りんご原料のブランデー(アップル・ブランデー)を製造する「モホドリ蒸溜研究所」が誕生した。立ち上げたのは、本誌の読者にもお馴染み、同県つがる市在住の木村慎一氏(71)の会社、(有)サンアップル醸造ジャパンだ。青森が誇るりんご産業の将来を見据えて、銀行から資金を借り入れて、およそ3億円を投じて設備を整えた。「高級なブランデーづくりが定着すれば、加工用りんごの需要が底上げされ、りんご栽培面積の減少にブレーキをかけることもできるだろう」――そんな願いを込めて、取り組む。高級酒づくりは、労働力が不足する時代の農業のあり方を探る挑戦でもある。 文・写真/樫原弘志

観光需要も見込む

モホドリ蒸溜研究所はJR五所川原駅から徒歩数分の場所にある。所内にはブランデーを有料で試飲できるカフェもあり、ガラス越しにドイツから輸入した蒸溜窯などブランデー製造設備を見学できる。観光客によるお土産需要も意識したおしゃれなつくりだ。
五所川原は、日本海沿いに秋田県能代市との間を結ぶJR五能線が通り、JR駅の隣は、太宰治の故郷・金木町方面を結ぶ津軽鉄道始発駅となっていて、少なからぬ数の観光客が行き来している。
モホドリ蒸溜研究所の周辺には、立佞武多(たちねぶた)の館や吉幾三コレクションミュージアムなどが立地していて、木村氏は夏祭りの時期に観光客のために仮設の立佞武多観覧席を作って営業していた。
新しい研究所は屋上にテラスを併設していて、コロナ禍がおさまれば、2022年の夏はその場所が立佞武多観覧席としてにぎわうことになる。
カフェのコーナーでは、他の生産者ともタイアップして、地域特産のアップルパイやブランデーケーキ、さらに地元で人気のオリジナル焙煎コーヒーも販売している。

津軽版カルヴァドス

2021年10月1日に発売したアップル・ブランデーは、500ml入り(税込み2860円)と180ml入り(同1518円)の2種類で、商品名は「LOVEVADOS(ラブヴァドス)」、アルコール度数は25度だ。高濃度の原酒をストレートでも飲みやすいよう希釈した。
アップル・ブランデーの国際ブランドとしては、フランス・ノルマンディー地方のカルヴァドスが有名だ。商品名としてもカルヴァドスを名乗りたいところだが、原産地呼称保護制度により他の産地は使用を許されない。
ツガルヴァドスなども候補に挙がったが、ラベルの裏側に描かれたアダムとイブの絵の愛のイメージからラブヴァドスの名称にした。カルヴァドスにほれた男が津軽のりんごで作ったブランデーである。この事実は商標よりもずっしりと重い。
2020年に原料りんご2500箱(1箱20kg)を仕入れ、2021年3月の酒造免許取得後におよそ6000本(500ml換算)を製造した。初年度とあって原酒の品質にとことんこだわった結果、想定よりも少ない製造量になった。
いまのところ、通信販売や口コミで個人客にも売れているが、東京都内の酒類問屋から千本単位の商談を持ち込まれたこともあるという。2021年産の仕込みも順調に進んでいる。

ブランデー用りんごの当たり年?

2021年産は1万5000箱を目標に原料りんごを買い付ける計画だった。ところが、木村氏自身が経営するりんご園を含めて取引先の農園は2021年、大豊作に恵まれて、原料は2万箱程度集荷できた。
りんごの糖度も高く、木村氏は「質の高い原酒ができつつある。ワインにも当たり年があるように、ブランデー用のりんごも今年は当たり年といわれるだろう」と満足気だ。
りんご1箱でブランデー6本を作ることを目指して安定生産を軌道に乗せていく。りんごの作柄に豊凶変動はつきものだけに、「りんごを原酒に変えて貯金できるのはうれしい」とも語る。

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