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【世界農業遺産を訪ねて】
徳島県_にし阿波の傾斜地農業システム 前編
- 評論家 叶芳和
- 第6回 2021年12月24日
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[1]傾斜地農法は人間の知恵の結集
西日本第2位の高峰を誇る剣山(1955m)の北斜面に広がる徳島県「にし阿波」地方の集落を訪ね歩いた(2021年11月初め)。徳島の平野部に住む人たちから「ソラ」と呼ばれてきた山間部である。“傾斜地農業”であり、古代から続く“独特の農法”が人々の生活を支えている(写真1)。
人々は山の斜面に住んでいる。標高100~900mの山間地域に200近くの集落が点在している。集落は傾斜地にあり、独特の景観が見られる。吉野川はよく氾濫する暴れ川であるため(年1、2回氾濫)、安全上、住居は高いところにある。山上付近でも水が湧き出るため、高いところが上等な土地という評価である。町の中は2等地、山の上が1等地とも言われる。
■カヤ利用と独特の生産方式
畑は、山間部によく見られる棚田や段々畑(これらは水平面に造成)ではなく、傾斜地のまま農業を行なっている(“傾斜畑”)。傾斜40度の畑もある。そのため、農法や農具が独特である。
「等高線農業」はその典型であるが、畝の切り方に知恵を使っている。
例えば、水をあまり必要としないサツマイモは、畝を傾斜に対して垂直に作り、水を流している。一方、水を必要とする作物は傾斜に対して等高線のように土を盛り上げ畝を作り植え付けする。さらに、畝間にカヤ(ススキ)を敷いて保水力を高めている。作付けする作物によって畝の作り方を工夫している。農具も傾斜畑に適する独特なものが工夫されている(後述、次号第4節)。
また、カヤを使って、傾斜畑の土壌流亡を防いでいる。カヤを乾燥させるために束ねて円錐状に積み上げた「コエグロ」があちこちに見える(写真2)。当地方独特の景観であり、秋から冬にかけての風物詩である。
このカヤは、春になると肥料として畑に入れられる。地温調節効果もある。カヤで畑の表面を被うと、昼の温度上昇を防ぎ、夜は保温効果がある。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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