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世界農業遺産を訪ねて

徳島県・にし阿波の傾斜地農業システム 後編

急傾斜地に張り付くように集落が点在する天空の郷。作物、農法、生活、文化が自然に溶け込み、生物多様性も宝庫だ。人間の知恵を集めた農法で400年以上の歴史があるが、いま集落は消滅危機に見舞われ、イノベーション農家だけが残っている。次世代に如何にして引き継ぐか。

3 経営イノベーションで残る農家たち

徳島県西部(にし阿波地域)の急傾斜地の集落を見て歩き、あることに気づいた。人口減少地帯であるが、残っているのは経営にイノベーションを起こした農家である。皆「農業版老舗企業」である。また、移住者が新経営形態で地域を活性化している。以下、いくつかの事例を見たい。つるぎ町旧一宇(いちう)村を中心に取材した。旧一宇村は急峻な山岳地帯であり、各集落の傾斜はここより山奥の祖谷(いや)地域以上に急峻と言われる。

■自家消費から市場流通へ
四国の尾根とも称される剣山系の山々と、瀬戸内海側の阿讃山脈の間を吉野川が流れている。吉野川北岸、つまり阿讃山脈南面の中腹に法市(ほいち)集落(東みよし町加茂)がある。干し芋を作っている「合同会社法市の干し芋」(山川貴久夫代表)を訪ねた。標高350~400m。地元の中学生も「知らない、行ったこともない」と言われる地域である。「限界集落」と言われている。
戦後のピーク時は集落に60世帯、100人超もいたが、いまは13戸に激減した。畑もタバコ栽培が盛んな頃は5ha以上あったが、タバコを止めた人が植林し山林に戻り、いまは2haに減った。
山川さんは四国の大手スーパーからの脱サラ組だ。法市集落では従来から干し芋を自家消費用(冬の保存食)に作っていたが、それを市場化し、経営を拡大した。当初は集落の生産者から「干し芋を売りたい」と相談を受けていたが、限界集落である法市集落を再生したいと思い、脱サラし(2016年)、サツマイモの6次産業化にチャレンジした(芋の生産+加工+販売)。雑貨店やネット販売で売っている。
法市は現在、13戸(5年前、山川さんが就農した当時は17戸)、集落の畑は全部で2haである。最大の農家で0・5ha、山川さんは0・3ha。この零細な耕地面積の制約条件では、6次産業化し付加価値を高めていく必要があったのだ。
山川さんは、べにはるかと金時系の芋を生産している。肥培管理は完熟牛ふん堆肥、有機資材、雑草を抑えるため一部カヤ(ススキ)を使っている。カヤは不足している。集落の人が使っているので、山川さんは入手困難。ただし、ようやく耕作放棄地を見つけたので(20a)、22年からはカヤが利用できるようだ。

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