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新・農業経営者ルポ

オンリーワンの“男気トマト”で目指す個人経営だからできること

無かん水栽培で育てたトマトに「男気トマト」と名付け、SNSを武器に農業経営に取り組む手島孝明(47)。一見武骨に映る手島の戦略からは、大手食品メーカーで培った営業マンの鋭い手腕が垣間見える。法人ではなく、個人経営にこだわり、オンリーワンのトマトを目指してまい進する男の姿に迫った。文・写真/筑波君枝、写真提供/手島農園

期間限定オープンの行列のできる直売所

埼玉県桶川市に4~6月の3カ月間だけオープンする直売所がある。営業は週3日、1日わずか2時間程度と限定感が強い。にもかかわらず、100袋あまりのトマトが飛ぶように売れ、あっという間に売り切れてしまう。それが手島農園のトマト直売所だ。
事前にホームページやSNSで営業時間を告知するため、地元はもちろん、県外からも顧客がやってきて列をなすこともあるという。車で訪れる人のために道沿いに案内ののぼりを立て、庭の一角を駐車場にしているが、それでは追い付かないほど。まさに行列のできる直売所なのだ。
この3カ月間は手島農園のトマトが最もおいしい時季。甘さと酸味のバランスが良く、うまみが凝縮された濃厚な味わいが楽しめる。収穫量も多いため、直売所の開設とオンラインショップの受注は、この3カ月間だけと手島は決めている。
トマトは開花から着色(収穫期)までの積算温度が約1000℃になると赤くなるといわれる。春先のトマトは、冬場から徐々に気温が上がっていくことで濃厚な味わいになる。気温が高く、40日前後で赤くなる夏場は酸味のあるさわやかな味わいに変わる。トマト好きの消費者には、うまみがしっかりと詰まった春先の濃厚な味が好まれる、というのが手島の分析だ。季節によって味に違いがあるからこそ、最もおいしい時季のトマトを価値がわかっている人に直接届けるのが手島の戦略だといえるだろう。
「直売所が開いている間、毎日のように来てくれたり、何袋も購入した数日後にまた来てくれたりとリピーターも多いんです」
直売所がオープンしている間、手島はできるだけ店頭に立ち、顧客と顔を合わせて会話することを心がけている。元々人と話すことが好きというのはもちろん、顧客との会話からニーズを探るのも重要なマーケティングとなるためだ。
会話の中で聞こえてきた「シーズン以外でも手島のトマトが食べたい」という声をヒントに手島農園のトマトでトマトジュースやジェラートも作り、直売所で販売している。トマトジュースは2021年に新発売されたものだが、テレビのバラエティ番組で紹介されたこともあり、あっという間に完売となった。今年もすでに100件以上の予約が入っている。
その貴重なトマトジュースを、取材中に筆者も試飲させてもらった。実は筆者はトマトジュースが苦手だ。内心戸惑いつつ口にしたが、思わず「おいしい」と言ってしまった。7月のトマトを使っているとのことで、酸味のあるさわやかな味わいがジュースに適しているのだろう。甘みも感じられ、トマトそのものを食べているような味だった。
「トマトジュースは飲めないという方からも好評なんですよ。トマトそのものの味が詰まっているからでしょうね」

大手食品メーカーの営業マンから農業へ

手島は江戸時代から続く農家の18代目として生まれた。中山道の宿場町、桶川は温暖な気候で農業の盛んな地域だ。手島農園も高台に約1.3ha(約4000坪)の畑を持つ。

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