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特集

子実トウモロコシ 市場拡大への道

10年ほど前から始まった日本の子実トウモロコシ栽培。先駆者たちの活動が、徐々にではあるが実を結びつつある。転機を迎えたといってもいいだろう。かつては消極的だった行政も、ようやく重い腰を上げはじめた。地域差はあるものの、バックアップ体制も整えられようとしている。 生産者にとって、飼料原料の輸入価格上昇も追い風だ。国産原料との価格差が縮まれば、競争力も高まる。加えて、水田転作した麦などの連作障害が各地で生産者を悩ませるようになってきた。その意味でも、輪作体系に土壌改良効果もあるトウモロコシを組み込む価値はある。 とはいえ、課題もまだまだ多い。今回は、子実トウモロコシ普及に取り組んできた先駆者の最新情報を交えながら、市場拡大に向けた動きを特集する。

Part1 トウモロコシ輸入の現状と今後 日本での生産拡大に追い風となるか

柴田 明夫 (株)資源・食糧問題研究所 代表
筆者プロフィール
1951年生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業後、丸紅(株)に入社、鉄鋼・調査部門を歩む。2001年丸紅経済研究所主席研究員、2010年 同代表を経て、2011年10月(株)資源・食糧問題研究所を開設、代表に就任。農林水産省「国際食料問題研究会」など各種委員を歴任。

本稿では、わが国が毎年1500万t規模で輸入する代表的な飼料穀物であるトウモロコシを中心に、22年の市場を占った上で、水田活用の一環としてトウモロコシ自給に向けた取り組みの必要性を論じてみたい。グローバリゼーション(=農産物自由化)の下、食料・飼料ひいては農業そのものを極限まで海外に依存してきたことの日本の危うさが、問われなければならない。

【高止まりする穀物価格――トウモロコシと小麦価格逆転の背景】

シカゴ穀物市場では、2015~20年前半にかけて大豆、小麦、トウモロコシとも比較的安定した値動きを続けてきた。しかし、20年8月以降急騰に転じ、大豆、トウモロコシ、小麦が主役を入れ替える形で相場を牽引してきた。特に、21年に入ると騰勢は一段と強まり、5月には、大豆が1ブッシェル(大豆、小麦は27.2kg、トウモロコシは25.4kg)=16ドルを突破し、13年7月以来、8年ぶりの高値を付けた。この間、小麦、トウモロコシもそれぞれ7ドルを突破するなか、トウモロコシが小麦価格を上回る現象が生じた。通常、両作物の間には1~2ドルの差があり、逆転劇は初めてのことだ。
その後、穀物価格は、21年8~11月にかけて調整色を強めたものの、年末・年始にかけて再び上昇に転じ、22年2月2日現在、大豆15.45ドル、小麦7.55ドル、トウモロコシ6.23ドルまで水準を切り上げている(図1)。
シカゴ穀物市場で、トウモロコシ価格の騰勢が強まったのは、20年10月以降である。最大の要因は中国の「買い」である。特に、米国と中国両政府は20年8月、米国農産品の輸入を大幅に拡大する貿易協議「第1段階合意」(米国の対中輸出額を2年間で2000億ドル(約22兆円)増やす内容で、大豆、トウモロコシなど500億ドル規模の農産物の購入を含む)の「進展」を確認した。これを契機に中国は、米国産トウモロコシの買い付けを本格化させた。米農務省によると、20年後半~21年前半の中国のトウモロコシ輸入量は2951万tで過去最高となった(図2)。とはいえ、中国のトウモロコシ生産量が減少しているわけではない。トウモロコシ生産量は2億7000万tを超え、米国の3億8000万t台に次いで世界第2位の生産国である。しかし、3億t近い国内需要(飼料用、食用、工業用)に追い付けない。
中国は1959年の建国以来、トウモロコシ、小麦、コメなどの食糧については、自給政策(国内生産を95%以上とする)をとり、輸入はウクライナなどから毎年度500万t前後に止まってきた。しかし、2020年から輸入が急増し、メキシコ(1650万t)、日本(1540万t)を抜き、世界最大のトウモロコシ輸入国に躍り出た。21/22年度は、トウモロコシ2600万tの輸入を維持するのに加え、バーレー小麦、ソルガム(穀草)などを含む粗粒穀物の輸入量は5000万tに迫る見通しだ。大豆の輸入量も1億tに達し、小麦の輸入も1000万t前後に急増している(図3)。

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