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スマート・テロワールの実践者たち

農山村集落から始まる再生「地元」から日本と世界を創り直す


ちなみに消費の多くが都会に戻るのは、農産品以外の工業製品や建設投資、ITサービスではなおのことだ。農家自身の家計消費も同じであり、仮に農産品を東京に売って多くを稼いだとしても、その所得の9割以上が結局東京などの域外に出て行ってしまう。この蟻地獄のような構造に気付かず、売上の増加だけを考えているのが、多くの地域と、そこに根差す農家の実態ではないか。
だが、現実がそこまで厳しいからこそ逆に、91%が域外流出している消費のうち、わずか1%が地元に回るだけでも大きな効果が期待できる。
高津川流域3市町でいえば、消費の1%は年間14億円だが、これは年間人件費200万円の雇用の700人分という額なのだ。筆者(藻谷)による直感的な説明になるが、消費のうち地域内に回る分を毎年1%ずつ増やしていけば、毎年700名の新規雇用が生まれるのと同等の効果があるようなものである。
藤山先生の暮らす益田市に本社を置く、食品スーパーのキヌヤは、この原理を理解し、地域内の600の事業体が手を組んだローカルブランドクラブからの仕入れを増やしている。地域内経済循環が拡大し、雇用が増えれば、それは自らの市場を防衛することにつながる。キヌヤの店内では、目立つところに地場農産品の棚がある。17年には、年商133億円のうち、16%の22億円が地元産商品であり、対応する仕入れ額19億円が地元事業体に回った。10年には10%だったそうなので、大きな進展を見せている。
このような動きを、「市場経済原理に逆らう愚かな実践」と考える人もいるかもしれない。だが、10%の域内調達を16%に伸ばすこと、つまりそれでも8割以上は域外市場からの調達を続けている状態が、市場経済原理に反するというような話なのだろうか。家庭で考えれば、食費の2割弱を家庭菜園で賄うことは、市場原理に反する遅れた行動なのか。個人で考えれば、健康に留意することで年間医療支出を2割減らした人を指して、「市場経済原理に逆らう奴だ」と呼ぶべきなのか。そんな発想であれば、自給率4割の日本農業を継続することなどは、もっと大きく市場経済原理に反しそうだ。だがそんなクソ原理に、さほどの絶対性はないので、早く頭の中のゴミ箱送りにした方がいい。
前述のスイスはEUに囲まれながら国民各自の努力で価格の高い国産品を消費している国だ。それゆえに地域内経済循環が大きく、小さな町々にまで高度な雇用が生まれている。それでも世界の市場競争では完全な勝ち組で、資源国以外で日本から貿易黒字を稼いでいる数少ない国でもある。何でも極端な原理主義は間違っている。市場経済の中にあっても、9割の域外流出を1%でも取り返すよう努力することに、何の問題もない。

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