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【土門「辛」聞】
事態切迫!原料は間に合うのか 北海道春肥供給は綱渡り状態だ
- 土門剛
- 第209回 2022年02月28日
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調達先が定まらぬ全農の肥料原料
最大原因は、昨年10月15日に中国政府が打ち出した肥料の輸出規制などに全農・ホクレンが対応を誤ったこと。とくに9割近くを中国からの輸入に頼るリン酸系肥料の原料不足がとても深刻。リン酸一安(MAP)やリン酸二安(DAP)は、開花・結実を促すとても重要な肥料成分なのだ。
とにかくタイミングが悪すぎた。中国の輸出規制が、ちょうど春肥製造に向け、肥料メーカーが原料調達に動き出そうとする矢先だったからだ。そのトバッチリをまともに受けたのは、国内最大の畑作地帯である北海道。畑作はリン酸系肥料を多用するからだ。ちなみに北海道より施肥のタイミングが早い府県は、規制滑り込みセーフのような形で原料を確保していた。
ホクレンには、系列にホクレン肥料があり、化成肥料を帯広、北見の2工場で、粒状配合(BB)肥料を帯広、北見、空知、釧路の4工場で製造。十勝、釧路、苫小牧には原料ストックの肥料センターがある。また畑作地帯の十勝地方には、5JAがBB専門の肥料製造工場を自前で持っている。原料はホクレンからの供給だが、これら5工場も中国の輸出規制で原料が十分に供給されていないはずだ。
全農によるリン鉱石やリン酸系肥料調達の歴史は、常に失敗、場当たり的対応の繰り返しだった。1980年代には、米国フロリダ州で、リン鉱石採掘事業の「全農燐鉱株式会社」を運営していたが、いつの間にか消えてなくなったみたいだ。
その次に手がけるのが、1992年の「日本ヨルダン肥料株式会社」(NJFC)。三菱商事や朝日工業など3社と合弁で設立、原料輸入だけでなくNJFCが製造した高度化成肥料の日本への輸出も手がけた。
全農は、そのNJFCからも撤退した。2011年のことだった。10年ちょっとしか続かなかった。ヨルダンに見切りをつけた全農が、次にリン酸系肥料の調達先に選んだのが、中国だ。12年に中国・福建省のリン酸系肥料メーカー「瓮福紫金化工股※(にんべんに分)有限公司」(瓮福紫金)へ資本出資。額は7億円、出資比率は10%だった。
全農が20年10月に発行した「全農レポート2020」では、瓮福紫金との関係強化について、「高品質なリン酸質肥料の安定調達に取り組んでいる」と総括していた。中国を相手に“安定調達”というのが、いかにも全農らしい。それがいかに脆いものであるか今回の輸出規制で思い知ったはずだ。
NJFCのその後について触れておこう。三菱商事など3社は、いまも株式を所有している。スパッと株式売却した全農とは大きな違いがある。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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