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今回の局面でも、三菱商事は、株主権をフル活用、ヨルダン産リン酸質肥料の調達に成功している。商社筋によると、調達量は少なくとも数万t。3隻に分けて日本に運び込むが、一部は現時点で北海道の春肥生産に間に合うか。それがホクレンにも供給されるかどうかは確認はできなかった。
NJFCの年間生産能力は、約40万t。そこから、この局面で数万t調達できたというのは、株主権を行使した交渉と評価できる。瓮福紫金へ資本出資しながら株主権を行使した形跡が確認できない全農とは雲泥の差がある。
「原料はある」その説明に裏付けなし
どれだけ原料が不足するか。業界においても統計にもとづく議論がないことは実に不思議だ。政府の統計数字を確認すれば、原料調達が、どういう状況に見舞われているか、簡単に解明できる。
ほぼ全量を輸入に頼るリン酸系肥料は、財務省の貿易統計の数字を使うことで原料供給の全体像をつかめる。しかも肥料は、例年、同じような時期に、原料調達、製造、出荷などを繰り返している。在庫を抱えないように製造のタイミングを計って原料を調達している。保管スペースという制約があるからだ。どの肥料メーカーも、よほどのことでない限り、大量に在庫を抱えてしまうような原料調達はしないものだ。
肥料年度は、6月にスタートして5月に終わる。原料調達なら、月別の輸入数量を拾い出せば、原料の調達状況をほぼ正確につかむことができる。MAPとDAPの数字を拾い出し、前年と比較してみたのが上表である。
北海道で使われる春肥原料の調達は、例年なら11月以降にピークを迎える。春肥の製造は、4月半ばぐらいまで。春肥の需要ピークが過ぎる4月は、その半分ぐらいが秋肥の原料に回る。
それらを踏まえて11月から4月までの輸入量を比較してみよう。
本稿執筆時点(2月1日)での最新の貿易統計は21年12月分までだ。前年同月比2万t以上も大幅に減った12月分は輸出規制の影響を反映。6128tは、規制前の既契約分が輸入されたということだ。既契約分の輸入は見込み薄となる2月以降は、ほぼゼロになる。
それを踏まえて20肥料年度の数字と比べてみよう。20年度の12月~4月の輸入量は、20.7万t。4月輸入分の半分が、秋肥に回るとしたら、春肥向け原料としての輸入量は、約17.5万tということになろうか。
業界情報を総合すると、ホクレンは、21肥料年度前半の輸入分(21年6月~11月)は、前年同期より多めに輸入していたので、それが在庫として残っていること、今後、モロッコなどからの輸入も見込めるので、数量面で心配はないというスタンスのようである。北海道選出の国会議員にも、同じような説明をしている。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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