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モロッコから最初の原料が到着してホクレン肥料工場で製品になるのは、道内の港に原料が到着して1週間後からだ。製品になって農家に運び込まれるのは、早くて3月下旬頃、出荷ピークは4月上旬。もうその頃には、作物によっては播種のタイミングになり、現場は大混乱するに違いない。
以上のシナリオは、モロッコから日本への海上輸送、積み替え作業、そして道内港湾での荷揚げ、トラックの手配から工場への配送、製造などがすべてスムーズに進んだという条件が揃った場合のことだ。その一つでも欠落すると、混乱、パニックが起きてしまう。ホクレンの春肥供給は、まさに綱渡り状態なのだ。
不測事態を予告するホクレン文書
ホクレンは、1月17日付けで道内農協に対し、1通の文書を発出した。タイトルは「令和3肥1月以降の出荷対応について(第2報)」。ポイント部分は、「希望数量に対する出荷対応」だ。リン酸系肥料については、「単肥(側条444、リン安含む)」の次のような記述だ。
「(単肥―2月1日(火)期日でとりまとめを実施します。現時点で希望に沿えない品目(尿素粒、塩安、硝酸カルシウム、DAP)は代替品で対応願います(窒素質は硫安、DAPは追加供給銘柄で対応予定)」、「複合肥料―出荷状況や原料の導入状況次第では、途中で保証成分を変更せざるを得ない状況も想定されます」
北海道の生産者には、春肥供給が極めて厳しい状況に置かれていることはほとんど知らされていない。もちろん農協は、ホクレンからの文書についても、その内容をよく分析して組合員に伝えていたという形跡はなさそうだ。
最後に1月17日付けホクレン文書の内容を知った道内生産者の声なき声を紹介しておきたい。やはり懸念は、原料不足が原因で想定される代替品や品質・成分のことであった。
「特に塩安を硫安で代替するのは水田にとって致命的な障害が起こりますね。DAPの追加供給銘柄というのも、はたしてそのようなものがあるのか。複合肥料で、いまから保証成分変更を予告しているのは、リン酸低減銘柄の商品しか供給できないと開き直っているようなものです。そしてガッカリしたのは、この時期、生産者がもっとも関心を抱く出荷時期についての記述がなかったことです」
ホクレンは国会議員や農水省に楽観論を吹き込んでいるようだが、その説明が彼らの期待願望を並べ立てただけの中身のない内容であることは、1月17日付け文書がすべて証明する。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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