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世界農業遺産を訪ねて

クヌギ林とため池がつなぐ循環シイタケ農家は公益的価値の創造主

「ため池」が面白い。前近代の技術が、今も農業インフラとして重要な役割を果たしている。しかも、生物多様性を生み出し、人類の未来を先導している。大分国東半島はエコロジーとエコノミーの共存の実験場となっている。ここは世界農業遺産の保全に向け応援団が多い。

1 脱・東大教授が生みの親

国東(くにさき)半島はずっと気になっていた。「仏の里」の別称があり、実際、古代から開けた宇佐神宮があり、歴史のロマンを感じる。そこに「世界農業遺産」認定が加わり、また「七島藺(しちとうい)」という高級畳表の原料が近年注目されていると聞き、憧れを抱いた。2021年12月中旬、国東半島を訪問した。
13年5月、国東半島・宇佐地域は国連食糧農業機関(FAO)から、伝統的な農業や文化、景観、生物多様性が維持されている地域に与えられる「世界農業遺産」に認定された。
国東半島は瀬戸内海式気候で雨が少ないため、古来「ため池」によって農業用水を供給してきた。ため池の周りはクヌギ広葉樹林の森にして水源涵養林とし、定期的に間伐して「ホダ木」を取り、原木シイタケを栽培してきた。シイタケ農家が自分の生計のため森を管理している訳だ。クヌギの森の手入れで森林管理を行なうことで、生き物が豊かな森となり、絶滅危惧種のオオイタサンショウウオが生息するなど生物多様性が維持されている。
海もミネラルたっぷりな水が流れ込み、プランクトンが豊富だ。湧水域で育つ城下カレイ(日出町の海岸付近)などの豊かな魚種も森林が育んでいる。農業と漁業と自然がつながった生態系が実現している訳だ。国東半島はクヌギ林とため池が農林水産循環を生み出していると言えよう。
「世界農業遺産」の価値があると最初に気づいたのは、別府市に立地する立命館アジア太平洋大学(APU)のカゼム准教授(現教授、イラン人)であった。彼は申請書を出すよう熱心に働きかけたが、当初、県はじめ地域の人たちは動かなかった。そこで、東京大学農学部生命科学研究科助教授を辞め(03年、43歳)、出身地の国東市に戻り、現場で農業経営を営みながら情報発信を行なっていた林浩昭氏にアプローチした。
林氏はことの重要性を即座に理解し、動いた。地元の人たちも、国東の農業のモデルは頭の中では分かっていたが、それが世界的に大事なことかどうかが分かっていなかっただけである。世界中の農業を見て歩いているカゼム先生がFAOに世界農業遺産認定を申請すれば通ると言ってくれたので行動を起こした訳だ。
カゼム先生は価値の発見者、提唱者であり、申請活動で中心的な活動をした林さんは国東半島宇佐地域世界農業遺産の「生みの親」と言ってよい。林さんは同世界農業遺産推進協議会の会長でもある。カゼム氏は林氏に出会って、地域の宝物を発見した思いであったであろう(人材こそ宝である)。人材がいなければ、山も海も、価値を発現できない。

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