記事閲覧
暦年ベースと肥料年度のトリック
次いで省幹部の口から出た「統計もそのような結果が出ている」という説明を分析してみよう。とっさに思い浮かんだのは、その省幹部は、部下が貿易統計の数字を都合よく切り取った資料を示されたものを鵜呑みにしていたのではないかという疑問だ。肥料年度ではなく、暦年ベースで整理したものを参考にした見解ということだ。そこで貿易統計から2通りの資料を作成してみた(表2)。
最初に断わっておきたいことがある。通常の肥料年度を1カ月前倒しして21年6月から翌年5月とした。先に説明したように、春頃から先高感が業界に浸透し、それに対応して各メーカーによる原料の早期手当てを統計に反映させるためだ。対象は中国を含む主要国からの輸入分(全体の9割以上)。
データをみると確かに暦年ベースなら、21年は「例年に近い供給量」どころか、前年を上回っていることが分かる。省幹部の楽観論は、暦年ベースでの統計を示されたことによるものとしか思えない。
本稿で整理した21肥料年度での輸入量を追うと、見方は一変する。何よりも昨年10月15日発令の中国政府による輸出規制の影響が、12月からもろに出ていることが分かる。
本稿執筆時点で確認できる貿易統計の数字は、22年1月までだ。従って、22年2月以降、よほど輸入の上積みがなければ、「例年に近い」という状況には達しない。19・20肥料年度の平均輸入実績(47.2万t)を21肥料年度の予想需要量と想定。そこから1月までの輸入実績分を差し引いたものを必要輸入量とした。すると不足分は15.1万tということになる。それを踏まえて安岡審議官に調達状況を質してみた。
「心配することはありません。モロッコだけでなく、各地から入ってきますよ。ヨルダン、韓国、米国、中国からも入ってきますよ」
輸入国の名前をズラッと並べたが、肝心の量についての説明は一切なかった。3月1日公表の貿易統計では22年1月分は4.2万t。輸入先は、ほぼ中国から。昨年10月15日に中国が輸出規制に踏み切る前の既契約分だ。多くは名古屋、姫路、宇部などで輸入通関。その税関の所在地から、有力商系肥料メーカーの輸入が大半を占めると推測される。
それにしても、5月までに不足分15.1万tの原料手当てができるかどうか。入手した情報を積み上げてみる。まず大口のモロッコからの緊急輸入は、合計10万tになると推測できる。根拠は、2月17日付け日本農業新聞が報じた「全農 春肥原料を確保」に、全農がモロッコから調達した分を「約8万t」と認めたこと。ホクレン分は、この中に含まれる。
会員の方はここからログイン

土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2020/12/17)
