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新・農業経営者ルポ

作るだけが農業じゃない!大規模経営者が描く“皆が幸せになる農業”

サッカー一筋の青春時代から一転し、実家の農業を継ぎ、コメや黒豆を生産、販売する原智宏。先代の逝去により若くして代表となり、大規模経営を指揮する。経営規模を拡大しながら、大阪や神戸などの大都会の近郊という地の利を生かし、販売力を高めてきた。自社だけではなく、関わる人皆が幸せになる農業を創り上げたいと語る原の農業経営への思いを聞いた。 文・写真/筑波君枝、写真提供/(株)アグリヘルシーファーム

中山間地域で約80haを経営する大規模農家

丹波の黒豆、丹波黒といえば、言わずと知れた黒大豆の一大ブランドだ。粒が大きくもっちりとした食感で、黒豆の最高級品ともいわれる。その産地の1つである丹波篠山市は、昼夜の寒暖差が大きく、肥沃な土地で、古くから丹波黒が特産品として栽培されてきた。近年は黒大豆枝豆(若さや)の人気も高く、10月初旬から下旬にかけての旬を迎える時季には、京阪神から観光客が訪れ、高速道路のインターチェンジには車が長い列をなすほどだという。
原が率いるアグリヘルシーファームは、この丹波篠山市の地で約80haの農地を耕す。2021年度は、コメ60ha、黒豆20ha、この中に年に2回収穫する作物が約2haあり、栽培面積はのべ82haになる。野菜も手がけているが、量としてはそれほど多くはない。取引先にコメを納品するときに、野菜も一緒に納める程度の量だ。それがとても喜ばれるという。
コメは、コシヒカリを30ha、加工用米を20ha、つきあかりを6haという内訳になる。ほかにミルキークイーン、キヌヒカリなどを約1haずつ栽培し、残りはもち米だ。
「飲食店などから『コシヒカリよりちょっと安価で食味がいいコメを』とリクエストされるのでそれに合うようなコメを3~4品種作るようにしています」
土づくりに力を入れ、加工用以外のコメの1割が無農薬米(栽培期間中、農薬・化学肥料無使用)で、ほかは特別栽培米として栽培する。食味を考慮し、肥料は与えすぎない。控えめに有機肥料を与えたコメは、タンパク質の含有量が7%を切れば食味が良いといわれるなか、6~6・5%を保っている。

一度取引した相手が離れへんのですわ(笑)

アグリヘルシーファームの強みを一言でいえば、販売力が挙げられるだろう。食用のコメは、JAに“少し”出荷する以外は、すべて自社で精米し、顧客とダイレクトに取引している。販売先は主に京阪神の飲食店や旅館など約100カ所と、自社のECサイト。ECサイトの個人客は500名を数えるという。注文に応じて自社で精米するが、その量は1日約500kg、週に1回神戸などに約1t配達するほか、遠方へは宅配便で、近隣には直接配達している。
「直販は相場が下がるリスクもあり、無傷ではありません。価格だけなら、もしかしたらスーパーで買う方が安いかもしれない。それでも種から作っている僕らのコメが負けるわけないと思っています」
本当はコシヒカリをもっと作りたいが、栽培期間が長く取れないため、地域の農家から玄米で買い取り、自社で精米して販売しているという。買取量は年間およそ60tにも上る。
「コメが年々安くなっているので、僕らが買って農家の収入を増やしたい。販売に関わる所が少なくなればなるほど農家の収入が増えますから、できるだけ僕らで売っていきたいんです」
この手法でこれといった営業もかけずに取引先を増やしてきた。直販を始めた当初は2~3店舗だった飲食店は、取引先が知り合いの店に声をかけてくれたりしながら増やし、今は70店舗以上になっているという。食味が良く、価格も手ごろ。必要なだけ注文すれば精米し、店先まで届けてくれる。しかも無農薬や特別栽培で、トレーサビリティもしっかりとしている。飲食店が安心して取引できるのも、うなずけるというものだ。自然食品店など食にこだわりのある店のオーナーも、納得させられるだろう。

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