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【土門「辛」聞】
偽旗の肥料行政―食料安全保障に逆行する砂漠のダチョウ
- 土門剛
- 第211回 2022年04月25日
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軍事に限らず安全保障と名がつくものの要諦は、ロジスティックス。わが旧帝国軍隊は兵站(へいたん)と呼んでいた。作戦計画に従って兵器や兵員を確保し、管理し、補給するまでのすべての活動を指す。これがいかに大事か。冷戦時代に発足した米国統合参謀の初代議長、オマー・ブラッドレー元帥の言葉を紹介しておく。
「戦争のプロは、『兵站』を語り、素人は『戦略』を語る」
目の前にロジスティックスの「失敗の本質」のような検証材料がある。本誌3月号から追い続けている全農・ホクレンなどによるモロッコから肥料原料(リン安)大輸送作戦だ。
中国政府が肥料29品目の輸出規制をかけたのは、昨年10月15日。ほぼ100%輸入に頼るリン安は、遠いアフリカのモロッコから緊急輸入することになった。全農・ホクレンなどが3隻の船をチャーターして緊急輸送したが、その航跡を再検証してロジの問題点を洗い出してみたい。
【第1船=QUEEN ISLAND】3月11日、北海道・釧路港にてようやく任務完遂。振り返ってみれば、ロジスティックスのお粗末さだけが目立つ。旧軍隊の経理将校的な視点で総括すれば、やたら船舶チャーター料を無駄遣いして、それに見合う結果を最後まで出せなかったことである。
この局面での最重要課題は、畑作物が主作物で、しかもリン安を大量に消費する食料基地・北海道へ一刻でも早く送り届けることだったはずだ。中国の輸出規制は、ちょうど北海道での春肥製造がピークを迎えるタイミングで起きた。ホクレンも含めての道内肥料工場は、一日千秋の思いで原料の到着を待っていたはずだ。
第1船が、モロッコの積み出し港ヨルフ・ラスファー港を出港するのは、1月1日(日本時間)。北海道・釧路港で荷物を下ろして任務完遂まで69日間もかかった。ちなみに国内最初の目的港(広島・江田島港)まで38日間。国内に着いてから31日間も要した。巡航船のように、最終目的港の釧路港まで原料を配り回っていたのである。
ロジスティックスの基本は優先順位をつけることだ。それを全農はできなかった。そう判断した根拠を示しておく。
ロジスティックス無視の原料調達で到着遅れ
軍事に限らず安全保障と名がつくものの要諦は、ロジスティックス。わが旧帝国軍隊は兵站(へいたん)と呼んでいた。作戦計画に従って兵器や兵員を確保し、管理し、補給するまでのすべての活動を指す。これがいかに大事か。冷戦時代に発足した米国統合参謀の初代議長、オマー・ブラッドレー元帥の言葉を紹介しておく。
「戦争のプロは、『兵站』を語り、素人は『戦略』を語る」
目の前にロジスティックスの「失敗の本質」のような検証材料がある。本誌3月号から追い続けている全農・ホクレンなどによるモロッコから肥料原料(リン安)大輸送作戦だ。
中国政府が肥料29品目の輸出規制をかけたのは、昨年10月15日。ほぼ100%輸入に頼るリン安は、遠いアフリカのモロッコから緊急輸入することになった。全農・ホクレンなどが3隻の船をチャーターして緊急輸送したが、その航跡を再検証してロジの問題点を洗い出してみたい。
【第1船=QUEEN ISLAND】3月11日、北海道・釧路港にてようやく任務完遂。振り返ってみれば、ロジスティックスのお粗末さだけが目立つ。旧軍隊の経理将校的な視点で総括すれば、やたら船舶チャーター料を無駄遣いして、それに見合う結果を最後まで出せなかったことである。
この局面での最重要課題は、畑作物が主作物で、しかもリン安を大量に消費する食料基地・北海道へ一刻でも早く送り届けることだったはずだ。中国の輸出規制は、ちょうど北海道での春肥製造がピークを迎えるタイミングで起きた。ホクレンも含めての道内肥料工場は、一日千秋の思いで原料の到着を待っていたはずだ。
第1船が、モロッコの積み出し港ヨルフ・ラスファー港を出港するのは、1月1日(日本時間)。北海道・釧路港で荷物を下ろして任務完遂まで69日間もかかった。ちなみに国内最初の目的港(広島・江田島港)まで38日間。国内に着いてから31日間も要した。巡航船のように、最終目的港の釧路港まで原料を配り回っていたのである。
ロジスティックスの基本は優先順位をつけることだ。それを全農はできなかった。そう判断した根拠を示しておく。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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