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新・農業経営者ルポ

滋賀を「小麦王国」に


乾燥調製施設自体も「規模拡大に備えてアップデートできるようにしてある」。施設に入ると、間取りに余裕があり、乾燥機や貯蔵設備の置かれていない空間が広いことに気づく。今は乾燥機7基で総容量560石なのを、現状の建物のままで1400石まで容量を増やせるのだ。

リスク乗り越え軌道に

小麦の取扱量を順調に増やしているイカリファームだが、新たに作り始める際にはリスクもあった。業界で輸入小麦の使用が前提となっているため、業者が扱うロットが大きく、買取価格が安いからだ。
ゆめちからを生産するきっかけは、長浜市で学校給食用のパンをつくる丸栄製パン(株)から声を掛けられたことだった。同社は県産小麦だけのパンを作りたいと考えていたが、県内で栽培が普及している中力品種だけではパンにならない。添加材として、超強力のゆめちからが必要だった。そこで、経営者が若くてやる気のある農業法人と見込み、イカリファームに白羽の矢を立てた。
生産者の顔が見える地場産の小麦を作りたいと、井狩はゆめちからの栽培に挑戦する。まず種の確保に苦労し、次いで「滋賀県産ゆめちから」を名乗れるように産地品種銘柄の指定を受けるのにも苦労した。
小麦は買取価格が安いため、畑作物の直接支払交付金を受ける必要がある。そのためには産地品種銘柄の指定を受けなければならない。3年かけて栽培試験をし、生育に関するデータを収集した。それを基に農林水産省に産地品種銘柄を申請し、審査を通過した。
超強力品種のゆめちからには、中力粉の弱さを補いパンを作りやすくする役割が求められる。それだけに、タンパクが13%を下回ると意味がなくなってしまう。実需の求める基準は15%で、数値が高いほど買取価格は上がる。なお、農林水産省が定めた小麦の用途別品質評価基準で、超強力品種のタンパク基準値は11.5~14%、許容値は10~18%で、現実に求められている品質とは若干のズレがある。
品質評価項目について、イカリファームはおおむね実需の求める数値を達成している。
「生産者は、適期に窒素を施肥し、タンパクを上げる施肥体系、そして穂発芽が発生しないような適期収穫が強く求められます」
まだ試作だった段階ではクレームが発生することもあったが、今はノウハウを蓄積し、取引先から信用を得ている。


生産と実需の橋渡し

井狩は、小麦の収益性の高さをことあるごとに周囲の農家に話してきた。それでも、「ほかの生産者は、急にはなびかない。しばらく様子を見ている」。イカリファームが生産量を増やして実績を積み上げても、自分もと手を挙げる農家は、なかなかいなかった。それが、ここ1、2年で状況が大きく変わっている。

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