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特集

ロシアのウクライナ侵攻でも食料不足は起きない!4つの視点で読み解く

ロシアのウクライナ侵攻を受け、世界の農業・食料情勢はどう変化しているのか。もっとも危機的とされる小麦にフォーカスし、最新の情報をもとに、その貿易・生産・市場の変化を分析する。「食料難の時代が来る」との悲観論が席巻するなか、見過ごされがちなのは世界の農家の対応力である。(農業ジャーナリスト・浅川芳裕)
ロシアとウクライナ産小麦は世界の輸出量の3分の一を占める。ゆえに、戦禍により両国の生産・輸出が激減すれば、世界は食料難に陥るというのが悲観論の筋立てだ。それは本当なのか。4つの視点から完全検証する。

視点1 戦争で輸出はストップしているのか

「ロシアからの小麦輸出は2021/22穀物年度(6月末締め)、前年度比10万t増の3300万tになる見通し。ウクライナの21年産小麦の大部分は輸出済み。ロシアの侵攻の影響で、輸出量は昨年比100万t減の1900万tになり、残りの期間、限られた追加輸出がある見込み」
これは米国農務省が発表した最新の「世界農業需給予測(WASDE)報告書」(4月8日)からの抜粋である。この予測によれば、両国による輸出減は90万t(「ロシア10万t増」マイナス「ウクライナ100万t減」)となる。90万tといえば多そうだが、世界小麦生産量7億7883万t(2021年)のわずか0.1%にすぎない。ロシアのウクライナ侵攻直後のWASDE予測(3月)はより悲観的なシナリオで、700万t減だったが、それでも生産量の0.9%。戦争が原因といっても、毎年起こる豊凶による生産量のブレ――数%から15%超に比べれば、想定の範囲である(【図1】参照)。
しかし、戦時下において輸出は本当に続いているのか。

【継続する小麦の輸出】

「ロシアは4月1日から13日間で約100万tの小麦を輸出、3月と同水準」(ロシア専門穀物データ会社のロジスティックス0S社)となっている。では、どこに輸出しているのか。「(トルコやエジプト、イランなど戦争前と同じ)従来の買い手国に出荷されている【図2】参照」(同社)
その結果、ロシア産に代わり輸出が急増すると予測のあった「EU産小麦の輸出量予測は下方修正」(ストラトジー・グレインズ社)された。とはいっても、海運物流は滞っていないのか。「ロシア側の黒海の港は操業しており、アゾフ海の海運も再開済み」(同社)
ロシア軍に黒海の港を封鎖されたウクライナは新たな輸出ルートを拡大中だ。「4月に109万tの穀物を鉄道貨物を中心に輸出済み」(ソルスキー農相)。「ルーマニアの港経由でバルク船による大型輸出も再開している」(ロイター4月29日)
加えて、ロシアがウクライナから盗んだ穀物も中東へ輸出されている。ウクライナ国防省情報局によれば「シリア仕向けの可能性が高い」。国家による食料盗難は戦争犯罪であり、その輸出は密輸だが、食料の輸出には変わりない。輸出元が善人だろうが悪党だろうが、戦時中も食料は動いているのだ。

【ロシアがすべての元凶】

一方、ロシアのウクライナ侵攻で両国からの輸入に頼る「エジプト、シリアなど中東で深刻な食糧不足の懸念」(テレビ朝日4月14日)といった報道が日本では日々流れる。当のエジプトは「小麦は4~5カ月分の戦略的な国家備蓄を保有し、十分なレベルにある」(マドブーリー首相)と発している。

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