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【世界農業遺産を訪ねて】
鮎はカネになるから川は守られる イノベーションが清流の歴史を紡ぐ
- 評論家 叶芳和
- 第10回 2022年05月30日
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1 清流の恵みが世界農業遺産に
長良川の鮎の遡上のごとく、奥美濃・郡上八幡の北方まで行った(4月中旬)。鮎は晩秋に川でふ化して海に下り、翌春遡上し、秋に産卵した後、一生を終える(年魚)。長良川の鮎は、冬は伊勢湾で過ごし、4月初め遡上開始(5~10cmに成長した稚魚)、4月中旬には岐阜市、4月末には郡上八幡に着くようだ(暖かい年)。
長良川は全国有数の鮎の遡上河川である。1位は栃木那珂川、2位茨城久慈川、3位神奈川相模川に続く4位。環境省の「名水百選」にも選ばれた清流が鮎を呼ぶのであろう。日本三大清流にも数えられている(他は高知四万十川、静岡柿田川)。
長良川は岐阜県の都市部を流れる川でありながら、これほどの清流が保たれているのは世界的にも珍しいといわれる。清流はいかにして守られてきたのか。郡上漁業協同組合の白瀧治郎組合長によると、「鮎が釣れるところは最も自然に近い川、それができるのは鮎を愛している人、鮎がカネになることを知っている人がいるからだ」。鮎はカネになるから、川は守られているというのだ。
鮎は美味しい。上品でほろ苦い芳醇な内臓は、鮎が食べる苔で風味が変わるといわれる。美味しさの源は豊かな苔を育む清流なのだ。それ故、人々は長良川の流れを大切にしている。清流の秘密はこれに尽きる。あとはどういう方法で大切にしてきたかだ。
長良川は美濃、飛騨、越前の国境の山・大日ヶ岳に流れを発し、県内を縦断し、三重県の伊勢湾に注ぐ全長166kmの一級河川である。流域に多くの恵みをもたらしている。友釣りや鵜飼など鮎漁業、それにまつわる観光業、清らかな水が豊富にあって成り立つ美濃和紙や関刀鍛冶などの伝統工芸、用水で潤された田畑の農業、等々、多くの産業を生み出し、地域経済や歴史文化と深く結びついている。流域には86万人が生計を営んでいる。一番有名なのは鮎文化であろう。川があって、鮎があって、人々の暮らしが成り立っている。
鮎だけではなく、清流や生態系、水を育む源流域の森林、さらに流域に住み生業を営み、文化を築いてきた人々の暮らしすべてが相互に連環してシステムになっている。この延々と続く持続可能な地域づくりが評価され、2015年、国連食糧農業機関(FAO)から「世界農業遺産」に認定された。システム名は「清流長良川の鮎」。認定地域は岐阜市、関市、美濃市、郡上市の4市である。4市人口は55万人(2020国勢調査)。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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