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新・農業経営者ルポ

オリジナル品種で勝負する 小さくても強い農業

茨城県東北端の北茨城市で営農する長谷川康平(44)は、花き農家であると共に育種家でもある。シクラメンの突然変異がきっかけで育種を始め、複数のオリジナル品種を生み出し、多くの賞も受賞してきた。「たくさんの人に植物を育てる楽しさと、成長を見守る喜びを届けたい」と語る長谷川の花き農家として、そして育種家としての思いを聞いた。 文・写真/筑波君枝、写真提供/長谷川園芸
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4000鉢のクレマチスが行き場をなくしたコロナ禍

2020年春。新型コロナウイルス感染拡大防止のために緊急事態宣言が出され、社会の動きが一斉に止まった。行事やイベント、宴会の中止、外出自粛による来店客や観光客の減少、さらには休校によってなくなった学校給食。それらで使われる予定だった食材をはじめ、計画的に生産してきた多くの収穫物や加工品が行き場をなくしたことは記憶に新しいだろう。
母の日を目前にし、ギフトとして人気の高いクレマチスの出荷を控えていた長谷川園芸にも、次々にキャンセルの連絡が届いた。その数、約4000鉢に及んだという。
当時混乱した生産現場を支えようと、ネット上では生産者と直接取引をする支援サイトが多数立ち上がっていた。同社もSNSの支援グループを通して購買者を募り、
4000鉢を卸価格で販売した。
「知人からSNSの支援グループの存在を聞いたことがきっかけでした。個別配送はしたことがなく不安でしたが、配送用の箱を調達できる見込みが立ったので一度に行ってしまえと、急ごしらえでショッピングサイトを立ち上げて販売しました」
途中でショッピングサイトのトラブルがあったものの、4000鉢はあっという間に売り切れたという。実は筆者もこのとき、同社からクレマチスを購入した。華やかな大輪に気持ちが和み、花の移り変わりが外出できない日々のささやかな楽しみだった。
「そのとき感じたのは、市場のみの出荷に頼るのではなく、販路を多様化していくことの重要性でした。本格的にネット販売に取り組もうと思うきっかけの一つになりました」

年間売上4500万円 借金ゼロの優良経営

長谷川園芸は、約33a(1000坪)の土地に連棟三つを含めた10棟で、シクラメン、クレマチス、クリスマスローズ、多肉植物などを栽培する。花だけではなく、種や苗の生産も手がける。両親と妻、さ
らに6名のパートスタッフを雇用し、経営している。年間売上は約4500万円。借入金はゼロと胸を張る。この規模での施設栽培で、6人を雇用しながらの借金なし経営は、優良経営といえるだろう。
福島県と隣接する北茨城市は、かつて常磐炭田として栄えた。現在栽培用のハウスが建っている場所の一角は段々畑だったが、石炭の採掘場として使わせてくれと申し出があり、その際に整地されたのだという。常磐炭田は1971年に廃坑となったが、整地された土地が残り、そこにそのままハウスを建てた。
「労力使わず整地されたので、ちょっと得したような感じです」
長谷川はここで生まれ、主にシクラメンを栽培する両親の姿を見て育った。

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