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欧州外交評議会の懸念は、侵攻前から中東地域では共有されていた。中東のカタール・ドーハにある衛星テレビ局「アルジャジーラ」が、この問題の核心を突くリストを侵攻1週間前の同17日にニュース番組ですでに取り上げていた。タイトルもズバリ、「誰がロシア、ウクライナ産小麦を買っているか」。両国産の小麦にどれだけ頼るかを示したものだ。輸入量全体の数字を付け加えておいた。両国の小麦輸出を地政学的に捉えることができる資料だ。
欧州外交評議会が指摘した中東と北アフリカは、18カ国中9カ国もある。両国産の輸入トップは人口1億430万人のエジプトだ。両国産への依存率は85%と突出。輸入先それぞれの生産量に合わせてバランスを取っているようだ。人口2億1400万人のナイジェリアは、ロシアからの輸入が約4分の1を占めるが、ほぼ同額以上をロシアと国境を接しNATOに加盟するリトアニアとラトビアから輸入する。
北アフリカでもっとも懸念されるのは、ウクライナ産に4割を依存するチュニジアだ。東南アジアに目を転じると、人口2億7640万人のインドネシアが、ウクライナ産に約4分の1を依存。人口1億6630万人のバングラデシュは、逆に4割強をロシアに依存する。
ウクライナ・オデーサ港は船舶の航行なし
ロシアの小麦産地は気象に応じて、南東部や北コーカサスなどの冬小麦地域、ウラル地方を中心とした春小麦地域に、ヴォルガ河に沿った、どちらも作付けする中間地域がある。農水省・農林水産政策研究所の長友謙治政策研究調整官の研究論文にそう書いてあった。中東やアフリカ、東南アジアなどへ輸出する小麦は、黒海からの積み出しが可能な冬小麦地域からの輸出となる。
一方のウクライナは、現在、ロシアとの戦闘が激しく繰り広げられている東部地方が主産地。ロシア国境に近い地域だ。実は、この東部地方からロシア南東部にかけて“土の皇帝”とも呼ばれる肥沃な黒土(チェルノーゼム)地帯が広がる。両国とも、小麦輸出が盛んなのは、肥沃な黒土のおかげだ。
軍事侵攻で懸念されるのは、戦場となったウクライナでの小麦生産だ。5月6日付けAFPは、フランスのデータ分析会社ケイロスは、米航空宇宙局(NASA)が衛星で撮影した画像を解析、「ウクライナの小麦生産は昨年比で少なくとも35%は減少する」との調査結果を伝えてきた。
より強く懸念されるのは物流面への影響で、どちらかといえば、こちらの方が深刻だ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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