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ロシア、ウクライナとも、中東や北アフリカ、アジア方面への輸送は、黒海に面した港からの海上輸送となる。それぞれの積み出し港からトルコのボスポラス海峡やダーダネルス海峡を通過して地中海に抜ける。東南アジアなどへは地中海に抜けた後、スエズ運河経由のコースとなる。
ロシアの軍事侵攻直後から、黒海の制空権と制海権が問題となっていた。制空権は、ロシア、ウクライナ双方とも取っていないが、制海権はロシアが握っている。2014年に併合したクリミア半島南部にあるロシアのセバストポリ軍港が、黒海艦隊の母港となっているからだ。最大の穀物積み出し港、南部のオデーサ港とは300kmしか離れていない。
実際、侵攻初日に穀物を積み込むためオデーサ港に向かっていた穀物メジャー、カーギル社チャーターの船が被弾する事故が発生した(2月24日付けロイター電)。ロシアの砲撃によるものとは確認されなかった。乗組員に被害はなかった。同日、オデーサ港の港湾管理会社は、港湾施設の無期限閉鎖に踏み切った。その状態は今も続いている。
侵攻からほどなく、その海域での浮遊機雷発見の報が相次いだ。どちらが敷設したかは不明。海上からオデーサ港のミサイル攻撃を防ぐため、ウクライナが流しておいたという説や、同港を海上封鎖するためロシアが流したという説がある。一部は、ボスポラス海峡付近のトルコの沿岸にまで漂着。黒海西側の沿岸諸国は、浮遊機雷の掃海作業を始めたが、機雷を探すのはかなりの難作業だ。
左の地図は、侵攻から約3カ月経過した5月26日の黒海における船舶の航行状況を示したものだ。データは、全世界の船舶の動きを追跡するVesselFinderの地図をスクリーン・ショット、地図や国名などを記入したものである。
現在、黒海を航行する船舶は、トルコのボスポラス海峡(左下)からクリミア半島東部に近いロシア沿岸に向けてしか航行していない。黒海の西側に数多くの船舶がみられるのは、ルーマニアのコンスタンツァ港だ。
ウクライナは、当面、この港を暫定的な海上輸送のコンテナ・ハブ港(物流拠点)として使っている。ただし穀物などの輸送は、同港への陸上輸送に難点がある。ウクライナの東部や南部の激しい戦闘が続く地帯を通過するためだ。
5月19日、スイスのダボスで開かれていた世界経済フォーラム(ダボス会議)にクレバ外相が出席、ロシアによる海上封鎖の不当性を国際世論に訴えた。
「ウクライナのクレバ外相は、ロシアが経済制裁緩和の見返りとして黒海の港の封鎖解除を申し出る可能性を提起し、国際社会を『脅迫』しようとしていると指摘。インタファクス通信は先に、ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務副大臣が、制裁の一部解除と引き換えに、ウクライナから食糧を運ぶ船舶のための人道的回廊を提供する用意があると述べたことを引用した」(5月24日付けロイター)
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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