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さらにクレバ外相は、ロシアが軍事侵攻と同時にオデーサ港以外の港に数千人の兵隊を送り込み、サイロに入っていた2000万t以上の穀物を掠め取ったことを明らかにした。掠め取った穀物は、国籍不明の船舶を使って中東やアフリカにロシア産として転売を試みたという(クレバ外相の5月19日付けツイッター)。
「エジプトのサメ・シュクリ(外相)と話した。エジプトがウクライナで盗まれた穀物を積んだロシア船を追い返してくれたことに感謝する」
このケースは、穀物を積んだロシア船籍の船が、エジプトの港に入港した際、書類の不備を当局から指摘されて水際で追い返されたという。
ウクライナ穀物輸出は結局、武力で解決か
5月末現在、戦局はロシア優勢に傾いた。当面の関ヶ原の戦いとされた東部2州の戦線でロシア軍が、補給ラインの要衝となるリマンの町を制圧したからだ。
その機をとらえてロシア・プーチン大統領が直々に食料危機の問題で西側諸国に揺さぶりをかけてきた。イタリア、ドイツ、フランスの首脳と個別に相次ぎ電話会談、ロシアへの制裁解除と引き換えに、「ロシアは、黒海の港からのウクライナの穀物の妨げのない輸出を実現するためのオプション(選択肢)を見つける準備ができている」(28日付けAFP)とボールを投げてきたのだ。
もちろん相手にされなかった。クレバ外相は、28日付けツイッターでプーチン大統領を痛烈批判する。
「ロシアへの制裁は、進行中の世界的な食料危機と何の関係もない。不足、価格上昇、飢餓の脅威が起きた唯一の理由は、ロシア軍がわれわれの海港で2200万tものウクライナの食料輸出を物理的にブロックしていることだ。モスクワに封鎖をやめるよう要求してください」
ロシアの本音は、もうひとつある。メディアは制裁解除だけを取り上げているが、本音はウクライナへの米欧による軍事支援の中止を求めているという見方だ。
ロシア軍は、東部2州の戦線では、とりあえず優勢に立ったが、さらなる軍事支援が続けば、最終的にロシアが敗北するというのが、軍事専門家の間の常識的な見方だ。これまでの軍事支援は、「防衛的」兵器に軸足が置かれてきたが、これからは「攻撃的」兵器の支援が中心となる。
分かりやすい例なら、ウクライナが強く求める米国製多連装ロケット発射機「MLRS/HIMARS」だ。従来の対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」は、歩兵携行式で射程距離が最大で数km先と短い。一方、「MLRS/HIMARS」は、標準タイプで同70km先。ロシア軍の大型多連装ロケット発射機「ウラガン」や「スメルチ」の射程距離を上回る。短距離弾道ミサイル「ATACMS」も発射可能で、これなら射程距離は300km先に伸び、ウクライナ国内からロシア国内の攻撃が可能となる。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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