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特集

農業と食の安全を脅かす「ポピュリズム」


そこに登場したのが自民党農林部会長の小泉進次郎議員であり、その強い意向で「日本再興戦略2016」で全ての加工食品への導入を決定した。しかし、不可能を可能にする方法はない。苦肉の策として取り入れられた「ごまかし」が、最も多い原材料に限って表示すること、3か国以上から輸入する場合は国名ではなく、「輸入」という「大括り表示」を許容すること、時期によって仕入れ先が異なる場合には「輸入又は国産」という「又は表示」を許すことだった。この措置で表示の義務化という目的を名目上は達成したが、「輸入又は国産」という表示に意味があるのかという当然の批判が起こっている。政治家のポピュリズムが大きな混乱を生み出した例である。
もう一つの例が「有機農業推進法」だ。2006年に成立したこの法律は「有機農業」を「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業」としている。環境負荷を軽減するために化学物質の使用を削減することは理解できる。しかし、遺伝子組換えを除外した科学的な理由は見当たらない。さらに、この法律には「消費者の安全かつ良質な農産物に対する需要が増大している…、有機農業がこのような需要に対応した農産物の供給に資するものである」と書かれ、有機農産物があたかも安全のためにあるような誤解を広げている。
実はこの法律は国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)による「有機食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン」に沿ったものであり、そこでも遺伝子組換えは有機食品から除外されているのだ。科学的根拠に基づいて遺伝子組換えの安全性を確認し、その栽培と販売を許可しながら、同時にこれを排除しようとする。安全を認めて許可したグリホサートを、不安の声が出ると禁止しようとする。国際的にも国内的にもこのような整合性がない施策を採用せざるを得なくなったことは、政治が民意や感情を無視できず、ポピュリズムに走らなければ支持を得られない社会情勢になったことを示す。

【問題に正面から取り組む】

このような状況を正そうとする動きもある。それがリスクコミュニケーション(リスコミ)だ。業界団体や民間団体が科学的な情報提供を行い、誤解を解消する努力を続け、その成果は少しずつ現れてはいるが、解消には程遠い。一つの例として内閣府食品安全委員会が行っている調査結果を図に示す。食品安全についてある程度の知識を持つ食品安全モニターを対象にしたアンケート調査だが、2004年から15年にかけて、遺伝子組換えに対する不安は年ごとに減っていった。これは、食品安全委員会のリスコミの成果と言えよう。しかし、その後不安は下げ止まり、逆に多少増えているようにも見える。添加物と残留農薬もよく似た変化を示している。この調査結果から、リスコミは効果があるが、すべての人の不安を取り払うほど大きくはないことを示している。

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