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特集

農業と食の安全を脅かす「ポピュリズム」


もう一つの動きは食品表示を担当する消費者庁が「遺伝子組換え不使用」表示と「添加物不使用」表示の規制を行ったことである。「遺伝子組換え不使用」については、分別生産流通管理(IPハンドリング)を行ったものについて表示を許可していたのだが、混入をゼロにすることは困難なため、5%までの意図せざる混入は許容していた。しかし、それは消費者に誤解を与えるとして、検出限界以下に厳格化した。「無添加表示」については、例えば「保存料無添加」と表示しながら同様の働きをするpH調整剤を添加する製品が存在するが、これは消費者を誤解させるとして規制するなど、かなり厳格な内容になった。前述の加工食品の原料原産地表示の義務化という政治の無理難題に対して、消費者庁が「国産または輸入」という無意味な表示を許可したことは、行政の精いっぱいの抵抗にも見える。
このような規制とリスコミを続ければ、添加物や遺伝子組換えに対する誤解や不安がなくなるのかと言えば、それは期待できない。その理由は、誤解を振りまくビジネスを止めることができないからである。いくら規制をしても「無添加表示」はなくならないだろうし、「遺伝子組換え不使用」表示は「分別生産流通管理実施」という表示に変わって存続するだろう。そもそも多量の遺伝子組換え作物を輸入しながら、国内での栽培が一切できないという異常な状況を改善しようという政治の動きはない。
日本人は問題に正面から取り組むことが苦手だ。遺伝子組換えに不安を持つ人がいたら、充分な情報提供と真摯な話し合いで不安を解消するリスコミを実施すべきだ。しかし、そのような「正面突破」は考えず、国内での生産は止めたままにしておく。それでも、輸入を止めるわけにはいかないので、「遺伝子組換え不使用」表示を許可するのだが、5%以下であれば混入が「なかったこと」にする。不安を解消して安心を得るための知恵とか選択の自由の確保と言えばそれまでだが、それは十分なリスコミを行って誤解を解消してからの話である。誤解をそのままにしておきながら安心を得ようとする行為は「ごまかし」そのものであり、科学的思考のかけらもない。
政府が国民をだますことで安心させるという最悪の出来事が起こったのが牛海綿状脳症(BSE)問題だ。BSE発見をめぐる農水省の不手際からパニックが起こり、畜産業は危機を迎えた。そこで、政府が採用した対策が全頭検査だった。牛は生後1年以内にBSEに感染するが、検査部位である脳に病原体が蓄積して検出できるようになるのは3歳以上で、それ以下の牛を検査してもBSEを見逃す。だから、海外では30か月以上の牛に限って検査をしていた。しかも、ほとんどの牛が30か月以下で食用になるので、検査件数はわずかだった。

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