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特集

農業と食の安全を脅かす「ポピュリズム」


こうした海外からの日本の農業政策批判は国際経済摩擦を引き起こし、日本の自動車など工業品輸出にも影響を与える。また、おりしも交渉中だったGATT(関税貿易一般協定)のウルグアイ・ラウンドで農業分野は重点課題となり、さらにはその後展開するFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の交渉でも、農業分野がネックとなることが増えてきた。実際、初期のFTA締結相手国はシンガポールなど、農業が問題とならない国にとどまった。
しかし、農業がネックとなり日本が国際化・グローバル化に後れをとると、国内からも農業保護批判が出てくる。工業など輸出関連産業である。ある程度は国内の農産物価格が高くても許容できるが、そうした政策が自産業の発展に支障をきたすとすれば話は別である。かくして、外圧と手を結ぶ形で、鉄のトライアングルの均衡を崩そうとする国内勢力が農業保護に反対するようになる。その衝突が最高潮に達したのがTPP(環太平洋連携協定)を巡る展開であった。実際はTPP賛成派と反対派が直接激突することはなく、もっぱら反対派が、農業が破壊されると危機感をあおることに終始した。賛成派は、TPPは時代の流れであり、また関税は即時完全撤廃されるのではなく、時間をかけての引き下げであり、それに合わせた生産性の向上はこれまでの延長で事足りるとみていた。
TPPはトランプ大統領(当時)による米国の脱退などがありながらも11か国で成立し発効した。当初の理念から後退した面は否めないが、TPPの合意内容はその後のEPA等のモデルとなり、日欧EPAや日米貿易協定でも合意内容が踏襲されている。TPPの後は、農業団体からのさしたる抵抗もなく、淡々とこれらの協定が締結されていった。初めは激しい抵抗をみせるが、一旦ことが収まると唯々諾々と従うのはこれまでの農業団体の行動パターンと同じである。反対の姿勢は見せたと自己肯定し、その後末端の農業者にどのような影響があろうとも責任を取ろうとはしない。つまり、条件闘争を認めず、常に玉砕戦法しか採ろうとしない。これでは、末端の農家はたまったものではない。本来、TPP闘争は反対するだけでなく、どのような条件ならTPPを受け入れるか、勝ち取るべき戦利品を明確にして闘争に臨むべきだったと思われる。

【アベノミクスの農業改革】

こうした経済の国際化・グローバル化に対応する形で、国内農業にも変革の波が押し寄せる。7月に亡くなった安倍首相の農業改革である。それまでの鉄のトライアングルの一角であった農水省に代わり、官邸が農業政策の立案に乗り出し、もう一つの角である農協の改革を断行した。それまで農政の問題は自民党の農林族と農水省および農業団体といった、農業関係者のみで議論され、一般国民の目に留まることはなかった。それを、国民の目にさらしたのが安倍元総理であった。

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