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ドリルで破壊すべき岩盤規制として農協組織をやり玉に挙げたのは、絶妙な戦略だった。農地制度やコメ政策などは一般国民にはよくわからないが、農協は誰でも知っている。農協を取り上げることで、安倍総理は自分の改革姿勢を「見える化」することに成功した。ただ、農協は民間組織であり、そのあり方や運営は内部ガバナンスの問題である。しかし、同時に農協は農協法により設立を認められているため公的側面を有する。特に、共同販売・共同計算は独禁法の適用除外を受け、また、一般の金融事業者には他業禁止の規制が課されているが、農協は信用事業も経済事業も同時に行っている。さらには、一般の保険会社では一緒に扱えない生命保険と損害保険を農協の共済事業ではどちらも販売している。
こうした例外措置を直接見直すのではなく、安倍政権が問題としたのは、上意下達を基本とする系統組織のあり方と、増え続ける准組合員の扱いだった。農協ガバナンスの中心は農協中央会(JA全中)であり、そこを改革のターゲットとすることで、系統組織に頼らない単位農協の育成を図ろうとした。要は、地域の農協が地域のニーズに応じて自由に活動し、必要があれば中央会のアドバイスを受ける組織とすることである。
もちろん、それまでも自由活発に独自の事業を手掛ける農協は存在したが、それを全国の農協で一般的な姿として実現すべきである。言い換えれば、地域で農協間の競争を促し、農業者は自由に農協を選べるような道を開くということである。そもそも協同組合は加入脱退が自由な組織であり、個々の組合が独自で自由な活動を行うのが原則である。日本の農協の場合は、戦中戦後を通じて、流通政策における政府の末端機関として位置づけられた特殊な協同組合である。
そこに風穴を開けるために全中の権限を弱め、全中が内部の全国監査機構で行ってきた会計監査は外部監査とすることを求め、業務監査を受けるかどうかは単協の任意とした。そして全中を農協法から削除し、社団法人とした。これらを実行するために、いまやドル箱である准組合員の利用規制をちらつかせ、最終的に利用規制の方は先送りとした。
こうした制度改革が単位農協の活性化に果たしてどれだけつながったのか。今のところ大きな変化はみられないが、右から左への会計処理で手数料を稼ぐ農協ビジネスから、農産物は買い取りで、自らの才覚で売りさばく農協も増えてきた。しかし、農協が本来の協同組合の姿に近づくためには、組合員一人ひとりの意識改革が不可欠であり、真の改革はまだまだ道半ばである。
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