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安倍氏の突然の辞任でアベノミクスは終焉を迎え、それを踏襲した菅政権も1年で終わり、代わって登場した岸田首相は、新自由主義的政策を否定し、分配に重点を置く政策に転じた。それに呼応するように、農業政策にも変化がみられる。「みどりの食料システム戦略」である。
【「みどり戦略」の是非を問う】
その中で農水省は、農林水産業の脱二酸化炭素化を目指し、2050年までに、化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減、化学肥料の使用量を30%低減、有機農業の面積を100万ha(全農地の25%)へ拡大するとした。現在の有機農業の面積は約2万4000haで、全体の0.5%に過ぎない。
突然の農政転換のようにも見える「みどりの食料システム戦略」だが、その背景には国際的な環境重視の農業推進の動きがある。環境への負荷削減の意識が高まり、SDGs(持続可能な開発目標)などとともに地球規模で取り組みが進み、アメリカでは2020年2月に「農業イノベーションアジェンダ」という戦略を策定した。2050年までに農業生産量を40%増加することと、環境フットプリントを半減するという目標を掲げた。
EUでも20年5月に「Farm to Fork戦略」として2030年までに化学農薬の使用およびリスクを50%減、有機農業を25%に拡大するという取り組みが始まり、地球規模の環境に配慮した有機栽培の強化を掲げて、農業を強くしていく経済政策が世界で先んじてスタートした。
日本のみどり戦略はこうした先進国の動きに呼応したものであり、日本が率先して打ち出したものではない。有機農業は環境にやさしいイメージがあり、農薬や化学肥料を使った農産物よりも高めの値がつくことが多いものの、一方で、必ずしも技術が確立されてはおらず、難易度が高い。そんな有機農業が花形として扱われる戦略に、農薬や化学肥料を使う慣行農業の関係者からだけでなく、批判は研究者からも起こった。
有機農業の研究者や指導者、実践者などで構成する日本有機農業学会は、みどり戦略が打ち出されたのを受けて、大幅な見直しを求める学会提言を出した。有機農業の関係者に共通する意見は、みどり戦略は「戦略」とは言いながら具体的な戦略がないということだ。(山口亮子「国が自画自賛する『みどりの食料システム戦略』の残念な中身」Wedge Infinity, 2021年11月9日を参照。https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24775)日本農業をどうするのか。様々な政策は場当たり的で、将来ビジョンが不明である。農水省は様々な政策課題に対し、「トリアージ」しながら政策を遂行する必要があるが、その原理原則が国民にも農業者にも見えてこない。みどり戦略においても、スマート農業などの技術進歩に期待するだけで、具体的な道筋は明らかでない。
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