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「みどりの食料システム戦略」のような農業の生産性を鑑みない政策の一方で、ウクライナ危機を契機に食料安全保障への関心が高まっている。実際、自民党は食料安全保障に関する検討委員会で、食料安全保障の強化に向けた議論を行っている。これまでの食料安全保障対策は基本的に食料自給率の向上に偏っていた。
【食料安全保障と自給率】
ほぼ5年毎に改訂される「食料・農業・農村基本計画」の議論の中心は、常に食料自給率目標値の設定であった。民主党政権時を除いて、カロリーベースの食料自給率の目標値は常に45%であり、2020年に改訂された基本計画でも従来と同じである。ただし、達成時期を先送りして2030年とした。現在の食料自給率は37%で、目標値に近づくどころか、過去最低を記録している。
食料自給率が食料安全保障の指標にならないことは明白だ。今回のウクライナ危機で日本の国民が不安に思っているのは、戦争や国際紛争でシーレーン等が閉ざされ、輸入が途絶した時の食料供給であろう。まさに有事の際に我々は生きていけるのか。それへの対処は、今の食料自給率を高めることではない。有事には生存のために最も効率的な食料の生産体制を構築しなければならない。市場経済の中で供給が行われている平時とは全く異なる。
有事には、どこで誰が何をどれだけ生産するのか、そしてそれを誰がどの様に誰に配給するのか、といった有事体制の食料供給計画を実行可能なものとして確立しておく必要がある。それは、農林水産政策の枠を越えた有事法制の中で議論すべきものだ。
農水省では、450万haの農地を使い熱量効率を最大化した場合、国内生産のみで2020キロカロリーの供給が可能だとし、その下での1日の食事メニューの例を公表している。しかし、それを実現するための手立てや方法については一切触れていない。これでは国民が安心するわけもなく、食料自給率の低さに不安を持っても不思議ではない。国民の不安を取り除くには、有事にあっても国民を飢えさせないという、確固たる食料供給の具体的青写真を示さなければならない。
食料自給率は結果であって目的ではない。農業生産性の向上により自給率が上昇することは望ましいが、食料自給率に注目するのであれば、その変化の要因を探らなければならない。それは需要と供給の結果であり、それぞれが自給率に影響を及ぼす。しかし、食料自給率が目標と化した場合、生産の向上だけでなく、消費者に対する政策の導入の恐れさえある。
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