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特集

農業と食の安全を脅かす「ポピュリズム」


決定的な要因がSNSの爆発的な普及である。新聞、テレビは編集会議を経た限られた情報しか発信できないが、SNSはだれもチェックしないフェイクニュースを大量に発信し、拡散することができる。「嘘も100回言えば真実になる」とはナチスドイツの宣伝大臣ゲッペルスの言葉だが、情報の量が真実を決める時代になったのだ。そして、多くの「いいね」を獲得し拡散するのは危険情報と不安情報であり、その大部分がフェイクニュースだ。

【『安心=安全+信頼』】

そんな中で出てきたのが「安全安心」という言葉だ。「安全」とは科学的根拠に基づくリスク評価とリスク管理により得られるものであり、リスクの程度は数字で表現できる。そして、安全を保障するのは専門家、すなわち一部のエリート集団だ。他方「安心」とはリスク管理に対する信頼度であり、それは個人により大きく異なる。これを『安心=安全+信頼』という公式で書き表すのだが、日本では食品の安全性は非常に高い。にもかかわらず、不安が大きいのはエリート集団に対する「信頼」が低いためである。
食品安全が自己責任だった時代はかなり大きなリスクも受け入れていたのだが、これが事業者と行政の責任になると消費者は「ゼロリスク」を要求し、これを達成できないことに不信と不安を感じるようになった。政治はそのような風潮に危機感を抱き、その対策として「安全安心」という全く意味が異なる単語を無理に一体化させて、国民の「安心」のために努力していることをアピールする風潮が定着した。
これを後押しするのがメディアである。「無農薬」や「無添加」を素晴らしいものとして取り上げ、残留農薬や添加物を危険なものと誤解させる記事があふれている。典型的な例が農薬も肥料も使用せずに栽培したという「奇跡のリンゴ」だ(https://agri-biz.jp/item/detail/6776)。NHKが取り上げたことをきっかけにして出版物や映画に広がり、ブームになったことを記憶している方も多いと思う。農業者であればこのようなリンゴ栽培がビジネスとして成立しないことはすぐに分かるのだが、メディアは「美談」や「感動」が売りであり、科学や経済は無視する。こうして誤解を広げたのだが、メディアにその反省はない。
食品ではないが、子宮頸がんワクチンの副反応を訴えるグループに同情して大きく報道し、不安を広げたため、ワクチンの接種がほとんどなくなり、子宮頸がんで死亡する人を増やすことになったことも大手新聞の重大な責任だ。

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