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専門家インタビュー

批判するより考え方を示し農業問題の本質に迫る

今年、水田政策に“5年水張り”問題の激震が走った。水田転作のあり方を見直す政策転換に農業現場は動揺を隠せない。日本の総人口が増加から減少に転じ、需要の伸びないマーケットに向き合わざるを得なくなったいま、我われは農業・農地・農政についてどう向き合ったらいいのか。絶対的な答えを示すより、「考えていくための考え方」を示したいと、2冊の著書を刊行された農業経済学者の小川真如さんに話を伺った。 (取材・まとめ/加藤祐子)
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「田んぼ余り」こそこれから対峙すべき問題

――はじめに小川さんの研究活動について教えていただけますか?
農業経営体や行政、農業関連団体などへの調査で得たデータに基づいて、現在の農業を取り巻く構造や、農業政策の影響を分析しています。今後の農業政策に貢献する知見として発表するほか、今後のあるべき農業政策について提言を行なっています。
――『日本のコメ問題』(中公新書)と『現代日本農業論考』(春風社)を6月に刊行されましたが、どのような書籍でしょうか?
『現代日本農業論考』では農業全般の話を扱っており、『日本のコメ問題』の内容を理論的に支えている土台の部分にあたります。一方、『日本のコメ問題』は読みやすくするために、理論的な話はあまり書いていません。
ですから、『日本のコメ問題』からみれば『現代日本農業論考』は舞台裏といったところですね。『現代日本農業論考』からみれば『日本のコメ問題』は、農業にかかわる広いテーマからコメ関係の内容を集中的に切り出して、読みやすく整えたものといえます。
――『日本のコメ問題』を早速読みましたが、日本の水田農政、コメ問題をわかりやすく解説されていますね。どのような読者層を想定されたのでしょうか?
普段、農業に馴染みのない方から、農業が専門の方まで、幅広く読んでいただきたいと思いながら執筆しました。『日本のコメ問題』はもともと出版社から、都市住民でも理解できるようなコメ問題の解説書を執筆してほしい、という依頼を頂いたのがきっかけでした。そこから編集者との打ち合わせで、コメ農家や農業関係者の方々にも、読み応えのある内容にしようという話になったんです。長年、コメに携わってきた農家や関係者の方には、こうした時代もあったなとノスタルジーに浸ってもらったり、都市にお住まいの方には現在のコメ問題について理解を深めてもらったりされるような新書を目指しました。
日本のコメを説明しようとすると必ず登場するような、「主食用米」「転作」「生産調整」という専門用語や、農業政策の名称、「生産」「消費」「供給」「需要」といった用語も、基本的に使っていませんし、コメにまつわる雑学ネタも随所で紹介しているので、誰でも気楽に読んでいただけると思いますよ。
――『日本のコメ問題』では、未解決の問題として「田んぼ余り」を強調されています。「田んぼ余り」とはどのようなことでしょうか?
コメが足りない時代にはいろいろな問題があったとはいえ、コメが足りている状態という幸せに向けて、迷いなくコメの増産に猛進できたわけです。ところが、コメが足りた後は、「コメ余り」という幸せな悩みを抱えることになりました。そして、コメ余りの悩みの多くは“生産調整”、つまり田んぼを余らせることによって解決されてきました。そこで起きた最も重大な問題は、コメの自給達成により生まれることとなった余った田んぼから、豊かさを享受する方法が十分に確立されてこなかったという点です。果たして余った田んぼが社会の幸福に貢献するのか、それともいらないものなのか……はっきりとどちらかという答えが出ておらず、対処の仕方に私たちは困っているわけです。

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