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――農業関係者の多くは田んぼ余りという現実を認めたくないのが本音ではないでしょうか?
そうですね。そのなかで根強く残ってきた論理が、田んぼは余っていないという考え方です。使わない田んぼがあるにもかかわらず、田んぼは余っていない、というのは奇異に聞こえるかもしれませんね。どういうことかというと、理想的な田んぼの使い方をすれば、コメを毎年作らずに田畑輪換にした方が良いという考え方や、平時に使わない田んぼでも、有事となればコメを作るために必要という考え方などが登場してきたのです。
こうした、田んぼは余っていないという考え方は、転作補助金をはじめ、余った田んぼへの補助金を肯定する重要な論拠に使われてきました。一番わかりやすいのは、食料安全保障ですよね。コメの自給達成という幸せの副産物として生まれた田んぼ余りですが、食料安全保障などの観点から存在意義が認められてきたわけですから。
ところが、食料安全保障の前提にあるのは、田んぼは足りていないという考え方です。つまり、余った田んぼをどうするかという問題に正面から対峙することなく、現在に至っているわけです。
――余った田んぼが食料安全保障からみて必要だという考え方は、田んぼが足りなかった時代の発想の延長線上にあるわけですね。
そのとおりです。そして、それは現時点ではとても重要な発想だと思います。日本は食料自給率が低いですからね。
ただし、注意しなければならないのは、人口減少によって食料安全保障からみて必要な農地が減っていくことです。そして、近い将来、食料安全保障上必要な農地は、日本の農地全体よりも少なくなる可能性があります。
食料安全保障からみて足りていないという論理は、田んぼのみならず農地全体で成り立たなくなる可能性があるわけです。近い将来、田んぼはもちろん、農地が余っているということに対峙することになるでしょう。これ以上はネタバレになってしまうので(笑)……こうした将来予想に関心のある方は、『日本のコメ問題』の第7章をぜひ読んでみてください!
農業観・農地観を軸に議論の活性化を図りたい
――さて、一方の『現代日本農業論考』は分厚く難解そうな学術書ですね。帯の背表紙に「考えていくための考え方」と書かれています。まずその部分を解説していただけますか?
この本では、農業はどうあるべきかということについて決め付けずに、考え方が違う人同士が具体的な農業問題について、ともにより深く考えていくための方法を提案しています。
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小川真如 オガワマサユキ
農業観・農地観収集家
1986年島根県生まれ。2009年に東京農工大学農学部を卒業、12年に同大学院農学府修士課程を修了。新聞記者を経て、早稲田大学大学院人間科学研究科にて学び、現在、農政調査委員会専門調査員、東京農工大学非常勤講師、恵泉女学園大学非常勤講師など。専門社会調査士、修士(農学)、博士(人間科学)。著書に『水田フル活用の統計データブック』『水稲の飼料利用の展開構造』がある。
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