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【土門「辛」聞】
超円安とハイパーインフレに農業者はいかに備えたらいいか(1)
- 土門剛
- 第215回 2022年09月09日
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そこまでいかなくてもインフレは確実に起きる。超円安とハイパーインフレに農業者がどう備えたらいいか、2回にわたり日頃考えていることをまとめてみたい。
すべては、故安倍晋三氏が第2次政権(2012年12月)で採用したアベノミクスが原因だった。その概要なるものは、いまも首相官邸ホームページに掲載中のポンチ絵が分かりやすい。
政策の根幹は、3本の矢だった。第1の矢「大胆な金融政策」、第2の矢「機動的な財政政策」、第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」を次々と放ち、その目標は「持続的な経済成長(富の拡大)」とし、具体的には「国内総生産(GDP)成長率3%」を達成する数値目標を掲げたのだ。
アベノミクスは、故安倍氏が20年9月に政権の座から下り、その後を継いだ菅義偉政権が下野する21年10月まで、2人の総理大臣が取り組んだ経済政策だった。その数値目標は、果たして達成されたのか。
通知簿は、国内総生産の数字。内閣府の資料から、アベノミクスのビフォー&アフターを追ってみた。GDP全体、その内数となる農林水産業部門、さらにその内数の農業部門の数字も並べておいた(表1)。
アベノミクスの総決算は、見るも無惨、この8年間の年平均成長率は、実質ベースで0.9%の伸びしか示していない。「持続的な経済成長(富の拡大)」は看板倒れに終わった。農業セクターも右に倣え。先進諸国は軒並み1.5%から2%を達成している。ところが、首相官邸ホームページのポンチ絵には、「成果続々開花中!」の見出しを掲げ、次のように中間総括している。
「すでに第1の矢と第2の矢は放たれ、アベノミクス効果もあって、株価、経済成長率、企業業績、雇用等、多くの経済指標は、著しい改善を見せています」
中間総括の時期を確認して思わず吹き出してしまった。隅の方に小さな文字で「2015年5月29日時点」という注釈をみつけたからだ。
確かにその頃は、アベノミクスは熱狂の中にあり、成果のようなものはいくつかあった。株価や雇用だ。
注釈が必要なのは株価。故安倍氏が第2次政権に就いた頃の日経平均株価は1万円。官邸が中間総括する頃には2万円に迫る勢いだった。わずか3年で倍になった。その後も株価だけは上昇を続け、昨年2月には30年ぶりとなる3万円台を回復、現在も2万7000円台にある。景況感なき株高だ。
第1の矢「大胆な金融政策」により、超低利の資金が市場に供給されることになった。その資金が役立ったのは生産や消費の経済活動ではなく、結果としてマネーゲームへの資金を供給しただけのことだった。
官邸による15年の中間総括から7年が経過した。その後、官邸はアベノミクスへの総括に動こうとしない。実に不思議なことである。
底が割れそうな円の下落。これこそ異次元緩和がもたらした厄介な産物である。
このことに気付いた方は、相当の事情通。ところがメディアは、超円安の原因を、いまだに日米金利差だけで説明する傾向が強い。木を見て森を見ずの議論だ。右代表で7月23日付け日本経済新聞の「ニッキイの大疑問」なるコラム記事を取り上げてみよう。
疫病神だったアベノミクス
すべては、故安倍晋三氏が第2次政権(2012年12月)で採用したアベノミクスが原因だった。その概要なるものは、いまも首相官邸ホームページに掲載中のポンチ絵が分かりやすい。
政策の根幹は、3本の矢だった。第1の矢「大胆な金融政策」、第2の矢「機動的な財政政策」、第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」を次々と放ち、その目標は「持続的な経済成長(富の拡大)」とし、具体的には「国内総生産(GDP)成長率3%」を達成する数値目標を掲げたのだ。
アベノミクスは、故安倍氏が20年9月に政権の座から下り、その後を継いだ菅義偉政権が下野する21年10月まで、2人の総理大臣が取り組んだ経済政策だった。その数値目標は、果たして達成されたのか。
通知簿は、国内総生産の数字。内閣府の資料から、アベノミクスのビフォー&アフターを追ってみた。GDP全体、その内数となる農林水産業部門、さらにその内数の農業部門の数字も並べておいた(表1)。
アベノミクスの総決算は、見るも無惨、この8年間の年平均成長率は、実質ベースで0.9%の伸びしか示していない。「持続的な経済成長(富の拡大)」は看板倒れに終わった。農業セクターも右に倣え。先進諸国は軒並み1.5%から2%を達成している。ところが、首相官邸ホームページのポンチ絵には、「成果続々開花中!」の見出しを掲げ、次のように中間総括している。
「すでに第1の矢と第2の矢は放たれ、アベノミクス効果もあって、株価、経済成長率、企業業績、雇用等、多くの経済指標は、著しい改善を見せています」
中間総括の時期を確認して思わず吹き出してしまった。隅の方に小さな文字で「2015年5月29日時点」という注釈をみつけたからだ。
確かにその頃は、アベノミクスは熱狂の中にあり、成果のようなものはいくつかあった。株価や雇用だ。
注釈が必要なのは株価。故安倍氏が第2次政権に就いた頃の日経平均株価は1万円。官邸が中間総括する頃には2万円に迫る勢いだった。わずか3年で倍になった。その後も株価だけは上昇を続け、昨年2月には30年ぶりとなる3万円台を回復、現在も2万7000円台にある。景況感なき株高だ。
第1の矢「大胆な金融政策」により、超低利の資金が市場に供給されることになった。その資金が役立ったのは生産や消費の経済活動ではなく、結果としてマネーゲームへの資金を供給しただけのことだった。
官邸による15年の中間総括から7年が経過した。その後、官邸はアベノミクスへの総括に動こうとしない。実に不思議なことである。
アベノミクスで毀損した日銀財務
底が割れそうな円の下落。これこそ異次元緩和がもたらした厄介な産物である。
このことに気付いた方は、相当の事情通。ところがメディアは、超円安の原因を、いまだに日米金利差だけで説明する傾向が強い。木を見て森を見ずの議論だ。右代表で7月23日付け日本経済新聞の「ニッキイの大疑問」なるコラム記事を取り上げてみよう。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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