ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

特集

日本でいよいよ始まるか!遺伝子組換え作物の生産とその未来 Part1 遺伝子操作の2万年の歴史

遺伝子組換え(GM)作物は75カ国以上で栽培、実地試験、貿易されており、世界の農家にとって不可欠な生産ツールの一つとなっている。そのGM技術なしに世界の農産物と伍してきた日本の農家にとって、新たな時代が幕を開けようとしている。GM作物の本格的な生産開始である。その長い道のりと未来を3回のシリーズ特集でお伝えする。シリーズ1回目は「遺伝子操作の2万年の歴史」。遺伝子操作が農業・食料・健康の分野で人類の繁栄にいかに貢献してきたか。どのように社会に受容されてきたか。東京大学名誉教授・唐木英明氏が縦横無尽に解き明かす。
食の信頼向上をめざす会代表
東京大学名誉教授
唐木英明
農学博士、獣医師。1964年、東京大学農学部獣医学科卒業。同大学助手、助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。その後、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、内閣府食品安全委員会専門委員などを歴任。

遺伝子操作の歴史

【遺伝子は生物の設計図】

「遺伝子組換え」とか「バイオテクノロジー(バイテク)」と聞くと、最近始まったよく分からない不安な技術と思う人もいるだろう。しかし遺伝子操作は少なくとも2万年前に始まり、そのおかげで人類が今日の繁栄を享受できるようになったのだ(表1)。
遺伝子は生物の設計図であり、生物が有用な性格を持っているということは、優れた設計図を持っているということである。もし設計図を書き換えることができれば、どんなに優れた生物でも作ることができるだろう。これが遺伝子操作なのだが、大昔の人たちはもちろん遺伝子があることさえ知らなかった。にもかかわらず、彼らは育種という形で経験的に遺伝子操作を行っていた。

【選択的育種と文明の発展】

2万年前に私たちの祖先は狩猟採集生活から農耕生活に移行した。農耕に最も必要なものは優秀な作物である。野生の大麦、小麦、米、豆などを農地で栽培し、収量が多く、味が良く、病気に強いなどの優れた性質を持つものを選んで栽培することで、農耕に適した品種を作り出した。また違った品種と交配させることで、両方の品種の優れた点を併せ持つ品種を作り出すという選択的育種を行った。しかし、優秀な品種を交配すれば必ず優秀な子孫ができるわけではない。
ある女優が高名な哲学者に「私たちが結婚したらあなたの頭脳と私の容姿を持ったすばらしい子どもができるでしょうね」と言ったところ、哲学者は「私の容姿とあなたの頭脳を持った子どもができるかもしれませんよ」と答えたという話がある。

関連記事

powered by weblio