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特集

日本でいよいよ始まるか!遺伝子組換え作物の生産とその未来 Part1 遺伝子操作の2万年の歴史


こうして極めて慎重な形で出発した遺伝子組換えが最初に実用化されたのが1980年代だが、ここでは医療分野での利用について述べる。

バイオ医薬品

遺伝子組換えにより作られたタンパク質を含む医薬品が遺伝子組換え医薬品で、一般にバイオ医薬品と呼ばれている。世界で最初に承認されたバイオ医薬品はヒトインスリンで、1982年のことだった。
インスリンは膵臓から分泌される血糖降下作用を持つタンパク質で、糖分を摂取すると分泌されて血糖値を下げる。しかし糖分の過剰摂取により分泌量が不足すると糖尿病になる。糖尿病が進むと血液中の過剰な糖分が血管に障害を起こして血流が悪くなり、心筋梗塞、脳梗塞、腎機能障害、網膜症など様々な病態を引き起こし、重症化すると死に至る。
厚労省の1997年の調査では糖尿病が強く疑われる人は690万人、可能性を否定できない人を含めると1370万人と推計された。国民の10人に1人という高い割合である。糖尿病の治療薬として使われるのがインスリンで、血糖値を下げるための医薬品として利用されている。糖尿病ネットワークが2013年に行った調査では、インスリン治療を行っている患者は約100万人である。

【トロントの奇跡】

糖尿病が起こる仕組みについては古くから研究が行われ、1889年に実験犬の膵臓を摘出すると糖尿病が起こることが分かり、1916年には膵臓から糖尿病を抑制する物質が分泌されるのではないかと考えられ、この謎の物質はインスリンと命名されたが、その実態は分からなかった。1921年にカナダのバンティング医師が、トロント大学のマクラウド教授の研究室を、教授の8週間の夏季休暇中だけ借りて、大学院生のベストの助けで行ったのが、膵臓の抽出物を糖尿病の犬に投与する実験だった。
バンティング医師とベスト院生は膵臓から有効物質を抽出する様々な方法を試した結果、ついに血糖値を下げる成分を含む抽出物を見つけた。そしてこれを糖尿病患者に注射したところ血糖値が見事に下がった。この発見は「トロントの奇跡」と呼ばれる画期的なもので、発見からわずかに2年後の1923年にノーベル生理・医学賞を受賞した。すぐ後の1928年にフレミングが抗生物質ペニシリン発見し、1945年にノーベル生理・医学賞を受賞したのだが、インスリンとペニシリンの発見は20世紀最大の医学上の功績とされている。
インスリンの発見を報告する論文はバンティング医師とベスト院生の名前で発表されたのだが、ノーベル賞を受賞したのはバンティング医師とマクラウド教授だった。マクラウド教授がこれを自分の発見のように講演や執筆を重ねたため、ノーベル委員会はベスト院生ではなくマクラウド教授を共同受賞者に選ぶという間違いを犯してしまったのだ。バンティング医師は賞金の半分をベスト院生に贈与したという。

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