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能登半島では、能登6農協で取り組む農薬3割減のエコ栽培の「能登米」のほか、棚田では“農薬5割減”の特別栽培に取り組んでいる(3農協)。この棚田米は加算金がある。棚田の“営農継続”を狙った戦略である。60kg当たり4104円加算される(全農1944円、JA2160円)。2021年産の仮渡金は1万600円であるから、38%も加算されたことになる。単収減による所得減少をブランド化による価格上昇で補う形だ(10a単収は慣行栽培9俵、棚田特別栽培7俵)。
JAおおぞら(穴水町)の話によると、「棚田は条件が悪く、一番先に放棄されるところだ。そこで、農薬5割減でブランド化し価格を高めることによって、営農の継続意欲を高めようという戦略です」。加算の“動機”が興味深い。
米価は下落傾向が明瞭だ。20年産米の相対取引価格は前年比7.6%減、21年産は12%減である。米価が下落傾向にあることが、加算金制に取り組む背景だ。生き残りをかけた戦略である。市場原理(過剰供給→米価下落)が、農協を農薬使用削減へ動かしている。「みどり率」は価格の関数だ。
同じ能登の羽咋市の農協は、無農薬の自然栽培を推進している。「道の駅のと千里浜」(羽咋市)の目玉は「自然栽培米」である。自然栽培の農産物を販売することで他の道の駅や直売所にはない魅力を高め(製品差別化)、同時に、オーガニックに憧れる都会人に来てもらって自然栽培に就農してもらう戦略だ。人口減少が続く農村の現実を考えた戦略である。発想がいい。既に自然栽培に38人就農した。
逆説2。以上のように、農協は農薬・肥料を売るのが仕事であるが、農薬や化学肥料を使わない栽培を推進する農協が出てきた訳だ。かって全農はそうした動きを攻撃し阻害していたのであり、時代の変化を感じる。米価下落が農協を変えたのである。市場原理は強い。
「みどり戦略」に対し批判的な意見があるが、筆者は楽観的である。環境配慮コストの負担は生産性向上がないと出来ないため規模拡大等が進む。つまり、みどり戦略は農業の構造改革を促進するメカニズムを持つ(特に水田)。単収の低下(1割程度)は過剰供給を緩和し、価格下落を抑制する。新しい価値観で設計された市場の下で、新しい均衡が成立するだけのことだ。
農政が健康、食の安全を目標にすれば(科学的根拠が必要)、市場の力が農政の成功を導くであろう。この「入口」を間違えなければ、みどり戦略の数値目標は達成可能、最後の農政転換となるであろう。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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