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世界農業遺産を訪ねて

【山梨県】扇状地の土地利用と果樹

扇状地は果樹適地であるが、峡東地域は農業者のレベルが高い。観光農園、宅配など個人出荷が多く、農協依存は少ない。農家が独自品種を自ら開発、まるで試験場だ。勝沼地区の美しいランドスケープは「ブドウやモモでカネとれる人がいるから保全される」。実業家の直言だ。
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1 日本一の果樹産地

山梨県峡東地域は標高3000m級の山々に囲まれた甲府盆地の一角にあり(甲州市、笛吹市、山梨市から成る)、日本一の「果樹産地」である。ブドウの収穫量は全国の25%、モモは32%を占める。また、ワイン発祥の地であり、日本で唯一「ワイン文化」が根付いている地域である。
果樹に特化した農業産地である。果樹が農業生産額の“9割”を占めている(後出表1参照)。
栽培されている果樹はブドウ、モモ、柿、スモモ、サクランボ、梨など10品目以上、品種・系統数は300以上。いま大人気のブドウ品種「シャインマスカット」は岡山県から苗木を導入したものであるが(農研機構育成)、いまや峡東地域が全国一の生産量を誇る。峡東の農業経営者の力量の高さを物語っている。
甲府盆地の農地は、周囲の山々の土砂を河川が運び形成された扇状地である。扇状地は水利が得にくく、水田に向かないため、ブドウやモモ、柿が栽培されたわけだ。土壌は水はけがよく、果樹栽培に適している。また、盆地特有の内陸性気候で、昼夜の温度差が大きく、日照時間も長く、美味しい果物を産んでいる。
ランドスケープ(景観)がいい。非日本、ヨーロッパ的だ。扇状地の扇頂にある勝沼地区は傾斜があり、ブドウに特化しているが、扇端の笛吹市はモモが多い(ブドウも)。地質や傾斜、気候条件に適応した果樹の品目や品種の棲み分けができている。この適地適作の土地利用がモザイク状の独特のランドスケープをつくっている。
ジオ(大地)や気候条件だけではない。歴史や文化・文明も、峡東地域の風土記には必須である。古くは江戸時代の大動脈・甲州街道、戦後は新笹子トンネルや中央自動車道開通の影響も大きい。今日、峡東地域の果樹産業は観光農園、直売所、通販で発展し、6次産業化しているが、モータリゼーションの影響もあり、東京が近くなったからであろう。また、東京市場へのアクセス改善が日持ちしないモモの産地振興を導いた。

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