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世界農業遺産を訪ねて

【滋賀県】琵琶湖システム

環境先進県―破壊からの復活。これが滋賀県に対する一番の感想だ。琵琶湖の自然環境は復活した。石鹸運動等の市民活動、農薬・化学肥料5割削減などの効果だ。これらは水と水田生態系の関わりの解明など、田んぼ研究にもとづいている。「三方よし」近江商人哲学の現れだ。
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1 風土と生業が織りなすランドスケープ

滋賀県は日本有数の工業県であるが(総生産に占める工業比率全国1位)、「大いなる田舎」を感じる。自然に恵まれた地域である。琵琶湖周辺を3日間取材旅行したが、のどかな田園風景が広がり、工業は見えなかった。湖東・湖南の「魚のゆりかご水田」、湖に浮かぶ離島の漁業の町「沖島」、湖西の「エリ漁」定置網の風景、一歩都市圏を離れると、風景も生活も大いなる田舎が広がっていた。風土と生業が織りなすランドスケープ(景観)が素晴らしい。
滋賀県は別名「近江」、歴史の地域である。安土城は「山城」と言われるが、往時は山のすぐ下まで湖が迫り、舟で出入りしていたようだ(湖東の農地は干拓地)。
近江は京の都に続く道であり、古代から交通の要衝である。日本有数の流通基地も、この歴史に由来するのであろう。
琵琶湖は400万年の歴史を持つ古代湖で、独自の進化を遂げた“固有種”が数多く棲む。ビワマスやセタシジミなど60種を超える固有種をはじめとして、1000種を超える動植物が生息しており、自然生態系の宝庫である。
人々は、水田に上って産卵し稚魚になって湖に下り成長する湖魚を捕まえ、漁業で生計を立て暮らしてきた。ニゴロブナはナレズシ(鮒寿司)として伝統的な食文化を支えてきた。エリ漁の湖面風景も地域に欠かせないランドスケープである。湖の生態系は貴重だ。
琵琶湖が汚れると、この生態系は壊れ、人との共存もなくなる。1960年代から80年代にかけて琵琶湖は汚れ、赤潮やアオコが発生し、生態系は危機に瀕したが、合成洗剤禁止(石鹸運動)や、農薬や化学肥料5割削減の「環境こだわり農業」を推進し、琵琶湖の浄化が進み、人との共存の流れも復活しつつある。ランドスケープも保全されている。
市民運動だけではなく、行政も先進的であったといえよう。日本有数の工業県、商業基地、人口増加にもかかわらず、自然環境が破壊から復活へと歩んできたのも、行政の舵取りが良かったからであろう。環境保全型農業に対し直接支払いを実施したのも、国に3年も先行している。滋賀県は“環境先進県”である。
こうしたことが評価され、2022年7月、国連食糧農業機関(FAO)から「世界農業遺産」に認定された。システム名は「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」。認定地域は滋賀県琵琶湖地域一円。面積1181平方km(湖670平方km、湖の保全に寄与する農地342平方km、水源林保全地域169平方km)。

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