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ハウスでは毎日イチゴが赤くなる。冷蔵や冷凍にも限りがある。どんどん赤くなるイチゴをどうすればいいのか。売り先に困った末に、佐野が選んだ行動は、無料で配ることだった。熟しすぎて廃棄するくらいなら、知り合いに食べてもらおうと思いついた苦肉の策だ。だが、これが功を奏した。もらったイチゴがおいしかったからと店を訪れる人が増え、2009年1月中旬くらいから徐々に売上が伸びていったという。
さらに、取引先も広がった。地元の高級スーパーとの取引が決まったのだ。この取引は佐野にある気づきをもたらした。それは、物を売るには“客層”を考えなければいけないということだった。最初に取引したスーパーの一つは安さを売りにする店で、佐野が店頭に立って試食販売をしても、価格の高い完熟イチゴに手を伸ばしてくれる人は少なかった。その反面、高級スーパーで試食販売をすると面白いように売れた。
「高くてもおいしい完熟イチゴの価値をわかってくれる人に向けて売らないと、売れないのだと気づきました。商売をされている方なら当然かもしれませんが、農業以外の何も知らなかった私にとっては、売るとはこういうことなのか!と実感しました」
ベンツのキッチンカー
この段階から直売所は軌道に乗り始め、スーパーの取扱店舗数も増え、経営が安定してきた。しかし、課題はいくつもあった。その一つが旬を過ぎたイチゴをどう売るかだった。通常、イチゴは3月ごろまでがシーズンで、それを過ぎると売れ行きが落ちる。スーパーとの交渉も、どのくらいまで価格を下げることができるかの攻防になってくるのだという。当然、それでは面白くない。一生懸命作ったイチゴの値段を下げずに売る方法はないだろうかと検討し、その対策として冷凍庫を導入してデザートにしたり、イチゴ狩りを始めたりもした。
さらに、新東名高速道路の開通に伴い、サービスエリアでのマルシェへの誘いが新たなビジネスをもたらした。マルシェでは最初はパックのまま並べていたが、売れなかった。周囲を見渡すと加工したジュースが売れていたり、養鶏場の唐揚げに行列ができていたりした。それを見てイチゴも食べやすくカットして売ったらどうだろうかと思いついた。イチゴ1パック300gを600円で並べていたが、これをカットして100gずつカップに入れ、コンデンスミルクをかけて300円を付けたところ、飛ぶように売れたという。
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佐野真史 サノマサフミ
富丘佐野農園(株)
代表取締役
1975年、静岡県富士宮市生まれ。子どものころから剣道に没頭し、高校時代は国体に出場するほどの剣士だった。静岡県立農林短期大学校(現・同農林環境専門職大学/同農林環境専門職大学短期大学部)を卒業後、21歳で親元就農、26歳で結婚。2008年、直売所「れっどぱーる」オープン。2015年、富丘佐野農園(株)として法人化した。
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