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「300g600円のものが、切って売ったら900円になるなんて、ビックリでした。これが加工か!6次産業化ってこういうことかと思いました」
その後、各地のイベントや催事からも声がかかり、夏は冷凍イチゴをかき氷のように削ってコンデンスミルクをかけたシェイブベリーや、イチゴのスムージーなどを販売するようになった。夏に販売の仕事があれば、通年雇用ができる。人が増えれば日常の仕事も楽になり、良い循環ができるぞと考えたのも束の間、ここでまた問題が発生する。
それまではテントを広げて販売していたが、スムージーなどの冷凍加工品はテント販売ができないと、保健所から指導を受けてしまったのだ。食品衛生法に基づき、必要な設備をそろえなければならない。端的にいえば冷凍加工品を売るのなら、専用のキッチンカーが必要だと指摘を受けたことになる。佐野はまた資金が必要だとがく然としたが、ここまで来たのだからとキッチンカーの導入を決めた。
「最初は安いものを検討していたのですが、ベンツ製の車はどうかと紹介されました。そりゃ、ベンツならいいだろうけれど、金額を考えると踏み切れずに迷っていました。その背中を押してくれたのが妻です。『いいじゃん、ベンツ、かっこいいじゃん』と。じゃ、買うかと思い切ることができました。結局、お金を借り、設備や塗装などを含めて700万円くらいかかりましたが、商売で使うので良い物にして正解だったなと今にして思います」
ベンツのキッチンカーは2013年にデビューし、各地で大活躍している。翌年には2号車を、2022年には3号車を導入し、夏期の売上を支えている。
農業法人の生産者であり、サービス業であり
取材中、佐野が就農したころに掲載されたという古い新聞記事を見せてくれた。髪が明るく、目つきも鋭く、今とはずいぶん違う印象だ。
「とんがっていましたね。今、イチゴのかぶり物を付けたりしますが、こんなことをするなんて、当時の私には想像できないでしょうね(笑)」
ただ、見た目に反して“びびり”だと分析する。組合を辞めたときも、どうなってしまうか不安でたまらなかった。対して妻は常に前向きで、迷う佐野の背中を押してくれる。このときも「やるしかないじゃん、楽しみだね」と励ましてくれたそうだ。
「いざというときの覚悟が据わっていて、かっこいいんですよ、うちの妻は」
妻も両親も課題にぶつかると共に悩み、アイデアを出しながら、佐野の農業経営を支えてきた。同様に社員も大切な存在だ。佐野のビジョンは、「イチゴのファンタジーワールド、れっどぱーるらんどを創りたい」である。来場者には富士山を眺めながら、イチゴ狩りをして食べ、笑顔になってほしい。日常を忘れ、ここにいる時間を存分に楽しむ。そんな空間を創りたいと考えている。れっどぱーるの仕事は、農業法人の生産者であると同時に、来場者に笑顔になってもらうサービス業でもある。そのためには社員も仕事を楽しみ、いつも笑顔で来場者に接してほしい。そんな会社にすることが佐野の仕事だと話す。
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佐野真史 サノマサフミ
富丘佐野農園(株)
代表取締役
1975年、静岡県富士宮市生まれ。子どものころから剣道に没頭し、高校時代は国体に出場するほどの剣士だった。静岡県立農林短期大学校(現・同農林環境専門職大学/同農林環境専門職大学短期大学部)を卒業後、21歳で親元就農、26歳で結婚。2008年、直売所「れっどぱーる」オープン。2015年、富丘佐野農園(株)として法人化した。
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