ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

特集

育種の成果をどう生かす

日本全国ほとんどの道府県で食味検定「特A」の評価を受ける時代。それでもさらに独自の良食味米育種に力を入れている。60年代末に多収を競う「コメ作り日本一」コンクールが廃止され、以後50年以上にわたって道府県での良食味米のブランド化競争が続いてきたが、すでにその意義は失われているのではないだろうか。
さらに、19世紀末前後に導入された男爵薯やメークインが我が国では未だに生食用品種としてダントツの地位を持ち続ける状態とはなぜなのだろうか。
この疑問にコメを中心に農研機構の坂井真氏、ジャガイモに関してカルビーポテト馬鈴薯研究所の森元幸氏に答えていただいた。さらに、遺伝子組み換え育種への期待を鳥取県の農業経営者・徳本修一氏にその思いを書いていただいた。
農業が産業としてのさらなる発展を遂げるためには、単に育種家の努力だけではなく、育種家から生産者、そして加工・流通・小売を含む食品業界が「理念と顧客を共有する」一気通貫のチャレンジを求められているのではないか。 (昆吉則)

日本農業発展に寄与する 新品種開発への期待 イネ品種の可能性を中心に

【1 日本の農業発展の上での品種の果たした役割】

日本の食生活でなじみ深い農産物、特にそのおいしさで知られるブランド農産物は、品種改良(育種)の成果であるものが多い。例えば、皮ごと食べられて風味の良いブドウ「シャインマスカット」や、しっとりとした食感と甘さを併せ持つサツマイモ「べにはるか」などが代表である。明治維新以来、日本は西洋の科学技術の導入に力を注いだ。農業技術についても例外ではなく、その一環として、当時の遺伝学の知見に基づく近代育種技術が導入され、イネ、ムギ類、他の作物にも適用されていった。それ以降、品種改良とそれに関連した技術開発は、常に日本の農業や食品産業発展の中で大きな役割を果たしてきた。
「品種改良」をひとことで定義すると、対象作物の持つ遺伝的多様性を操作して、その進化を人為的に方向付ける、言い換えれば、作物種の変異を引き出した上で、人間にとって都合の良い方向に改変していく営みである。今日我々が農業で利用している作物のほとんどが、近縁の野生種などをベースに長年の歳月を経て改良されてきたものである。イネの野生種は、東南アジアの湿地帯などに分布する“Oryza Rufipogon(オリザ・ルフィポゴン)”とされているが、その実物を見ると、細く小さい籾がパラパラと少量実ってすぐ脱粒してしまう雑草のような姿で、これを栽培しても、大勢の人口を養うことは無理と思えるような植物である(写真1a、b)。それを出発点に長年かけて栽培化された現在の栽培イネは、生産力(収量)で見ると野生イネ種の少なくとも数百倍にはなっているであろう。長い時間を必要とするが、育種とはそれだけの力を持つ技術なのである。

関連記事

powered by weblio