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今から数年前、産地をドライブしたことがある。印象に残っているのは、遊んでいる畑が極端に少なかったことだ。それだけ農地が回転している証(あかし)でもある。銚子市農業委員会に確認しても、畑はよほどの悪条件でない限り、遊休地や耕作放棄地になっていることは少なく、逆に田は悪条件でなくても遊休地や耕作放棄地が目立つという。
畑作が盛んなことを反映してか、農地の賃貸料金も、田と畑で大きく違う。ここでは「畑高」の「田安」だ。2022年3月に銚子市農業委員会が公表した「賃貸料情報」によると、21年1月から12月までの賃貸料水準の平均額は、田が7900円/10a、畑は2万2900円だった。売買価格も、畑は田の2倍近くはするそうだ。房総半島の農業の特色を裏付ける農地価格だ。
忘れてならないのは、銚子市から太平洋に流れ込む利根川の存在。半島に農業用水を供給する主たる水源になっているからだ。利根川は、徳川家康が江戸に幕府を開いた頃には江戸湾(東京湾)に流れ込んでいた。家康は、その流路を銚子に変えた。歴史の教科書は、「利根川の東遷」と書いている。その東遷なかりせば、房総半島の農業がこれほど盛んになることはなかったと思う。
渥美半島 施設園芸のパイオニア
半島農業の東のエースが房総半島なら、西のエースは愛知県南東部の渥美半島だ。東西50 km、南北5~8kmと細長い半島。根っ子部分は豊橋市。それから西の伊良湖岬までが田原市だ。面積は671平方km。房総半島の13%。半島の南側は太平洋に面している。
年平均気温は16.5℃と温暖。降水量は1667mm平均。気象で大きなポイントは、日照時間が長いことだ。年間2278時間もある。これは全国トップクラス。しかも冬期には滋賀県に山頂がある伊吹山から吹き付けてくる季節風がある。伊吹颪(おろし)のことだ。年間の平均風速は3.6m/sもある。
渥美半島は、ガラス室やビニールハウスを利用した施設園芸が盛んなことでも有名だ。日照時間の長さを取り込んだ野菜や花などの栽培形態だ。豊橋市が、施設園芸のルーツであるという説もある。それを裏付けるのは、豊橋市に日本の施設園芸をリードする企業が3社もあることだ。
渥美半島で最初に施設園芸を取り入れたのは、田原市文化財課の「歴史探訪」では、昭和7年というから、90年余の歴史がある。最初はメロンやキュウリの果菜類を栽培していた。戦後まもなく、温室の電照を始める農家が出てきた。菊の花芽ができる前に照明をあてることで人工的に日照時間を長くすることができる。これにより開花調整を可能にし、市場に花のないシーズンでも出荷できるようになった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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