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また、電気自動車の心臓部は蓄電池であるが、“自前主義”のBYDは15年にリチウム電池工場操業開始、今やEV用電池はCATL(中国)に次いで世界2位である。バッテリーを握っている以上、BYDはますます強さを発揮しよう。EVといい、リチウム電池といい、この“千里眼”に驚かされる。これと起業化能力、開発能力がBYD飛躍の背景だ。連結売上高は約8.3兆円に達する(テスラ11兆円)。王伝福の躍進に「中国共産党」を説明要因に加える必要はないであろう。
EVの大発展を見ると、三つの現象がある。
(1)王伝福もイーロン・マスクも、貧乏から立ち上がっている。
(2)電池メーカーとして出発し、EV生産販売開始は2010年である。テスラは09年。トヨタ社長は「100年に一度の大変革」というけれど、変革はわずか10年で起きた。
(3)クルマも電池も、日米欧が先行していた。自動車は西欧文明の象徴だったではないか。それがアッという間に中国に抜かれた。
(2)(3)はクリステンセンの「イノベーション・ジレンマ」に関わる。この(1)(2)(3)の底に流れるのは同じものではないのか。
一つは、現在は激動の時代、大イノベーションの時代にあるということであろう。10年で変わる、下剋上も起きる。
もう一つは、中国理解に関わる。中国に対する民族蔑視があるのではないのか(あの中国が…という見方がEVシフトの速度を見誤った一つの要因)。中国ヘイトだ。また、諸悪の根源として「中国共産党」を捉えているため、物が見えなくなっている。中国経済、産業発展は「共産党」で動いているのではなく、ヒューマンキャピタル(人的資本)の蓄積が厚く、かつ市場原理が働いているため、イノベーション能力が高いということであろう。大金持ちは雨後のタケノコ! そういう国であることを理解しておいた方が良い。
突如、「巨人」が誕生する時代。米中とも、ラッシュ! 米国では時価総額1兆ドル企業が7社誕生。イノベーションの時代だ。
この時代認識と中国理解が遅れているため、(3)が起きている。このことに気付くべきではないのか(経済成長、産業発展に「共産党」が有効であるなら、日本も共産党になればいいだろう)。大国の覇権争いに巻き込まれ、米国への忖度に走っているため、真実が見えなくなっているのではないのか。中国共産党のせいにして(excuse)、自分の弱点を変える取り組みをしない。この点を解決できなければ、日本の復活はないであろう。昨今の中国論はネトウヨではあるまいし、天に向かって唾をしているようなものだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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