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ジン造りは簡単だ。蒸留酒(焼酎等)に香り付けのためボタニカル(植物成分)を浸漬し、それを再蒸留したものがジンだ。簡単に造れる。しかし、売るのは簡単ではない。
中澤氏は、多くの人に愛されるスピリッツを目指している。お客様を楽しませ、幸せな気持ちを持たせることが出来るジンを目指している。味と香りが響き合い深まりながら広がりを見せるジンだ。オーケストラでトロンボーンがハーモニーの土台になるように、カクテルの中でハーモニーをつくる役割をするジンを造りたいという。
多くのジン造りが、地域性やボタニカルで差別化を図っているが、多くの人に喜ばれるスピリッツを目指し、地域性やハーブの特徴をブランディングとしない、スタンダードで伝統的なジンを造っている。製品差別ではなく、美味しさを消費者に届けることが優先だ。
ジンの母国は英国ロンドンである。ロンドンドライジンは、天然のボタニカルのみを使用して再蒸留する(蒸留後に香味付加禁止)。また、通常、ベーススピリッツには焼酎が使われるが、中澤さんは酒質そのものにこだわり、欧州から輸入した高純度のコーンスピリッツ(95度以上)を使う。トウモロコシ特有の甘い香りが奥深さを演出する(ベーススピリッツは購入するので、発酵工程不要、品質も価格にもよい)。
ボタニカルは、ジュニパーベリー(輸入)のほか、国産レモンと甘夏のピール(外果皮)、さらに香り豊かなカモミールとエルダーフラワーを加えることによりフローラルな風味を堪能できるようにしている。12種類使っているが、欧州で使われるスタンダードなものばかりである。ただ、王道のボタニカルに加え、和の柑橘をバランス良く効かせたのが好評だ。目指すは「飲む香水」か。
技術は、米国シカゴで研修した。ハイブリッド蒸留器の販売やコンサルティングを行なうKOVAL社だ。八王子蒸留所を訪ねると、同社最新式のオートメーション式の蒸留機器とステンレスタンクが並んでいる。ドイツ製の蒸留器は容量300リットル(3500万円)、週1日ジンを造っている。月産500mlボトル1200~1600本(年産1万5000本)。
価格はアルコール度45°4500円、40°4000円と少し高めだが、売れ行き好調。ジンは新規参入が多く競合会社が増えているのに、想定通りに売れているようだ。
ジンはファッション性が高い。バーでカクテルを飲む時だけではなく、造る段階からボタニカル選定など自由で創造的なところがある。自分の個性を表現できる産業だ。若い人が喜ぶ産業であろう。未来ある産業だ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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