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【知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
スウェーデン(2) ヘンプ繊維の断熱材でカーボンニュートラルを目論む
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事 赤星栄志
- 第70回 2023年09月25日
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ちなみに、17年からはサティベックスやエピディオレックスといった一部の大麻由来医薬品について輸入が許可された。日本のように大麻の医療利用を全面禁止しているわけではないが、大麻に対して厳しい規制を課す国である。
環境負荷の低いヘンプ繊維の断熱材
ヘンプの茎は、靭皮部という繊維と、木質部というコア(オガラ)で構成される(図1)。繊維は断熱材に用いられ、コアは石灰と水を混合してヘンプクリートと呼ばれる漆喰系の壁材や、チップ状のものを圧縮成形してパーティクボードになる。
18年と19年に同国で初めてヘンププレハブ住宅が建築された(図2)。このモデル住宅をつくったのは、13年に創業し、同国最南部のスコーネ地方の都市・マルメに拠点を構え、ヘンプ建築の設計・施工・材料販売を行なっているエコリューション社である。ヘンプ繊維の断熱材とヘンプクリートを組み合わせて、プラスチックや化学薬品を使わない新しいタイプの建設技術を採用した。
ヘンプ繊維の断熱材は、国際規格ISO14025:2006 「環境ラベル及び宣言-タイプIII環境宣言-原則及び手順」に準じて、独立した第三者による環境影響評価を経て製品化される。評価会社であるEPDインターナショナルの報告書には、「ヘンプは、1ha当たり22tの二酸化炭素を吸収する作物である。製品1 kg当たりに吸収される二酸化炭素の量については、ヘンプ繊維1kg当たり平均1.5kgの二酸化炭素が吸収されると推定される」「ヘンプは世界中どこでも栽培可能で、約100日で収穫に至る。これは、ほかの作物やバイオマス資源(例えば、北方林では収穫までに約70年かかる)と比較すれば、はるかに時間効率のよい成長速度である。気候変動への影響は、排出と吸収のタイミングに大きく左右されるため、この特性は気候変動の緩和に大きな違いをもたらす可能性がある」と明記されている。
エコリューション社は、13~20年までは年間300万円ほどしか売上高がなかった。ところが、20年にヘンプ繊維の断熱材が環境宣言をした翌21年には、783万9000クローナ(約1億円)売り上げた。また、同国最大の農林水産業系の経済団体「スウェーデン農民連盟」が主催するビジネスコンテストで21年に最優秀賞を獲得し、国内の知名度も上がった。
ヘンププレハブ住宅は現在、スウェーデン最大の建材・木材サプライヤーのOptimera社が販売を担っている。同社はノルウェーに拠点を置き、世界75カ国で16万8000人の従業員を抱える欧州最大の産業グループに属する。最近では、不動産開発のNREP社がストックホルム北部の街・ボルスタに、100%カーボンニュートラルを実現した床面積2万平方mの物流施設を建設中だ。高さ15mの建物の壁と屋根に、2m×15mのパネルにセットしたヘンプ繊維の断熱材を8000立方m採用する。必要なヘンプ繊維は約240t、ヘンプの作付面積に換算すると120ha以上になる。
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赤星栄志 アカホシヨシユキ
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
理事
1974(昭和49)年、滋賀県生まれ。日本大学農獣医学部卒。同大学院より博士(環境科学)取得。学生時代から環境・農業・NGOをキーワードに活動を始め、農業法人スタッフ、システムエンジニアを経て様々なバイオマス(生物資源)の研究開発事業に従事。現在、NPO法人ヘンプ製品普及協会理事、日本大学大学院総合科学研究所研究員など。主な著書に、『ヘンプ読本』(2006年 築地書館)、『大麻草解体新書』(2011年 明窓出版)など。 【WEBサイト:麻類作物研究センター】http://www.hemp-revo.net
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