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【知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
アルゼンチン(1)ヘンプを含む全面的な禁止から医療用大麻が開けた突破口
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事 赤星栄志
- 第73回 2023年12月26日
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その一方で、48年にアルゼンチン人のパブロ・オスバルド・ウルフ氏は『ラテンアメリカにおけるマリファナ:その脅威』を出版した。彼は、49年から54年まで世界保健機関(WHO)の依存性薬物専門家委員会の責任者を務め、1961年麻薬単一条約に大麻規制を盛り込む道筋をつくった人物である。支援したのは、米国人の反麻薬の先導役と言われるハリー・J・アンスリンガー氏だ。報告書『マリファナの身体的・精神的影響』(55年)を発表し、そのなかで大麻草を「身体的、精神的、または犯罪的に危険なもの」とみなした。これはWHOの公式なポジションペーパーではなかったが、アジアやアフリカ文化圏での薬用あるいは伝統的な用途を無視して、悪影響ばかりに偏った大麻のイメージを形成する元凶の一つになった。
60~70年代のアルゼンチンでは、アフリカ系奴隷による大麻(ハシシ)の習慣はほぼ見られなかったが、ヒッピー文化が広まった。前述のリネーラ・ボナエレンセ社は70年頃には300~400haにまでヘンプ栽培を拡大し、約3000名の雇用を生み、福利厚生が充実した会社になっていた。だが、マリファナを目的とするヘンプの花葉の盗難による迷惑行為を回避することができないと判断し、76年にヘンプ栽培をやめた。ところが、野生化したヘンプを理由に同社の責任者と社員が逮捕され、マスコミは「2000kgの大麻を押収した」と報道した。事実によらない不条理な逮捕だったので、交渉の末、1カ月後に釈放されることとなった。
こうした経緯のなかで、同国政府は1961年単一条約の批准後、法律17818号(68年)と同20771(74年)号によって、大麻を含む麻薬植物の所持・栽培を禁止し、罰則を強化した。単一条約では大麻の「医療および科学的」な利用は規制対象から外れていたが、同国の薬局方に第1版(1893年)から収載されていた「インド産大麻」が第5版(1966年)で削除された。同じく、「産業目的(繊維と種子)および園芸目的の大麻栽培には適用しない」が、法律21671号(77年)により大麻栽培を全面的に禁止した。
非犯罪化と医療利用の促進
88年に麻薬および向精神薬不正取引防止条約(国際連合)に調印したアルゼンチンは、89年に法律23737号(薬物法)を制定し、麻薬中毒防止と麻薬密売撲滅のためのプログラム事務局(SEDRONAR)を設立した。だが、その後の10年間で国家最高司法裁判所による同法の解釈は、変化せざるを得なくなる。
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赤星栄志 アカホシヨシユキ
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
理事
1974(昭和49)年、滋賀県生まれ。日本大学農獣医学部卒。同大学院より博士(環境科学)取得。学生時代から環境・農業・NGOをキーワードに活動を始め、農業法人スタッフ、システムエンジニアを経て様々なバイオマス(生物資源)の研究開発事業に従事。現在、NPO法人ヘンプ製品普及協会理事、日本大学大学院総合科学研究所研究員など。主な著書に、『ヘンプ読本』(2006年 築地書館)、『大麻草解体新書』(2011年 明窓出版)など。 【WEBサイト:麻類作物研究センター】http://www.hemp-revo.net
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