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【知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
アルゼンチン(1)ヘンプを含む全面的な禁止から医療用大麻が開けた突破口
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事 赤星栄志
- 第73回 2023年12月26日
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90年の「モンタルボ」判決では、麻薬の密売人と使用者を同一視し、「共同体を守る」ことと、「国家の存続そのもの」に影響を与えるという理由で、個人消費を目的とする所持を処罰することの合憲性が再確認された。ところが、09年の「アリオラ」判決では、第三者に影響を与えない限りという条件のもと、処罰の違憲性を指摘し、予防的な健康対策を講じるように促したのだ。
背景にあったのは、薬物使用に対して厳罰アプローチをとる禁止主義者と、人権に基づく健康アプローチをとる管理主義者との政治闘争だ。米国は禁止政策を強め、欧州はハームリダクション政策を推し進めていた。対する中南米諸国では、09年の「麻薬と民主主義に関するラテンアメリカ委員会」宣言の影響を受け、薬物を健康問題として扱う方向に政策転換する機運が高まっていた(同誌2021年9月号参照)。アルゼンチン国内でも、管理主義を訴えるアニバル・フェルナンデス法務・安全保障・人権大臣(当時)の力が上回ったのである。翌10年に制定された法律26657号(国民精神保健法)には、対象となる薬物の合法・違法に関係なく、問題のある薬物使用者への医療サービスを実施する旨が明記された。
こうした政治的な動きは、難治性てんかんの患者会と医師のマルセロ・モンテラ氏による医療用大麻の推進活動と連動した。16年には難治性てんかんを持つ子ども向けにCBDオイルの輸入許可が下りたことをきっかけに、医療用大麻への関心が高まり、法整備に至る。17年に上院58名の全会一致で法律27350号(医療用大麻法)が可決した(図2)。マルセロ氏が教授を務めるラプラタ国立大学(UNLP)は、17年に大学院に南米初となる「医療用大麻の処方と研究」コースを開設した。
隣国ウルグアイから遅れること4年、ようやく実現した医療用大麻の合法化だったが、患者団体からは実施の遅さや予算不足、プログラムへのアクセス制限などの批判を浴び、法改正を求める事態に陥った。(次号につづく)
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赤星栄志 アカホシヨシユキ
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
理事
1974(昭和49)年、滋賀県生まれ。日本大学農獣医学部卒。同大学院より博士(環境科学)取得。学生時代から環境・農業・NGOをキーワードに活動を始め、農業法人スタッフ、システムエンジニアを経て様々なバイオマス(生物資源)の研究開発事業に従事。現在、NPO法人ヘンプ製品普及協会理事、日本大学大学院総合科学研究所研究員など。主な著書に、『ヘンプ読本』(2006年 築地書館)、『大麻草解体新書』(2011年 明窓出版)など。 【WEBサイト:麻類作物研究センター】http://www.hemp-revo.net
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