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農業経営者ルポ

「お客様」が見える農業者

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第2回 1993年07月01日

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 平成三年の秋から春にかけては雨が多く、移植後に降った大雨でよその畑は水田のように水がたまっていたり、そこまでいかずとも根腐れしている苗が多いのに、池田さんの畑はすぐに水が抜け、まったく障害がない。

 その年の最終結果は、従来より出荷箱数にして二〇%も増え、玉の巻きが硬く大きさも均一になって、通常価格より一箱につき二〇〇円も高く売れた。

 池田さんはその結果を見て、平成四年七月に一度に一七インチのリバーシブルプラウ、二連のバイブロサブソイラとともにトラクタも新車を入れた。さらにこの年、畑に入れるワラや機械のための格納庫も新築した。

 Nさんが話していた本当の意味も分かってきた。それを実践できる自信がついたのである。

 その夏には、やはり新谷さんの勧めで緑肥としてソルガムを作り、それもすき込んだ。池田さんは、以前から養鶏業者から生のままの鶏糞をもらっている。捨て場所のない鶏糞は、タダで一時間以上もかけて運んでくる。特に地力のない畑には一〇a当たり二〇tも入れる。もっとも、それだけではない。池田さんは野菜作農家であるが、歩行型のロールペーラを使って稲作農家のワラを集めて回る。畑にまいてすき込み、鶏糞とともに畑の中で堆肥化させる算段だ。もちろん生鶏糞の量は上の出来具合いに合わせて調節するが、排水が改善された畑でさらにプラウで反転耕起されると、これが素晴らしい効果をあげた。

 作物の出来に自信をつけた池田さんは、今年の春キャベツで従来の畦間六六cm、株間四五cmという慣行の植え付けから、畦間を六〇cm、株間を三九cmに狭めた。株数を増やしたのである。

 狙い通りの成果だった。出荷時期をこだわらなくなったため、人より一~三週間定植を遅らせたのにもかかわらず、周りの人に追いつくだけでなく玉の締まりやそろい、色合いもはるかに良いものができた。寒さで玉の頭がトロケる人が多いのに、地温が高いせいか、それもまったくなかった。その結果収量は、通常が一〇a当たり二五〇ケースというのが平均だが、今年の池田さんは三〇〇ケース以上で二十数%増し。しかも全シーズンを通じてMは三〇ケースのみで他はすべてL級。春キャベツの出荷では今年の鹿島で一番の箱数になってしまった。今年は元々の相場も良かったが、

 「揃いが良いと収穫の段取りも良くなる。以前も一日で五〇万円出荷した経験があるけど今年の最高は八〇万円。マ、悪い気はしませんよ。でもネ、今日どうしても新谷さんを接待したいというのは、もうけさせてくれたことよりスガノさんに『土を作ればあとは簡単なんだ』って、しみじみ教えられたことへの感謝なんですヨ」

 という。池田さんは、この良い成果というものが自分の能力の故ではなく、人や家族、社会、そして土から与えられたものだと繰り返し話す。そして、今の池田さんは、そのことへの「感謝」や「ありがたみ」を戻すことこそが大事だと思っている。人へも土へも。そして、かつての自分とは、むしろ奪うことばかりを考えていて、結果は失うものの方が多かった、と過去を振り返る。

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