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自然の摂理から離れた農法への疑問
小田川さんが『無農薬』に取り組んだのは、ご自身の肉親が次々とガンで亡くなっていった体験からだった。
「本来、生命の糧とも言える食べ物がむしろ命を脅かすものに成りかねなくなっている。それは食料を育てる土そのものがおかしくなっているからであり、入が自然の摂理から離れたものになってしまったからではないか。そして、そもそもその基本を担う農業が自然や上を忘れてしまっている」
最初はわずかの面積から始まった。草取り、病害虫との闘いであった。やがて、その困難さの原因はそれまで壊し続けてきた土にあり、そもそもの自然に対する考え方の問題でもあるように小田川さんは思えてきた。
普通の人が、低温で不稔を多く発生させているのを小田川さんは、「自然の摂理に反する農法がそれの原因になっているのではないだろうか」と説明する。
炊いて嵩の増える充実した米
土作りは田の土壌分析から始まった。それは自分の田の上を知り、それに必要な最小量の肥料分を把握するためのものである。化学肥料は側条施肥で施用される。しかし、それだけではない。
小田川さんは、棚から幾つかの小さな容器を持ち出してきた。
サトウキビや米酢の絞りカス、青米とヌカの混合物。これらのものは完全に発酵させ粉末になっている。さらにコウモリの糞の発酵物、貝化石、麦飯石、炭粉末等々である。ここで使う米酢や糠はすべて無農薬の小田川さんのお米を材料にしたものである。コウモリの糞は温度が低くても発酵を進める力があるのだという。
今ではなかなか手に入らないものもあるが、最初の一〇年問は、これらすべてを何らかの形ですべての田に入れていた。現在では秋起こしの時や元肥、あるいは素足で田に入っての感覚で使用している。何か呪術めいているが、小田川さんは、それぞれに理屈を持っており、最後の評価は実際に米を食べてみての味、病人に食べてもらうことでその価値を見る。
「本当に上ができたナ、と思えるのには一二、三年かかる」
と小田川さんが言う時、「土ができる」とは一般に語られるのとはレベルが違うようにも思える。小田川さんは「土」だけでなく「心」の問題をも言っているのかもしれない。
「よい稲というものはできればできるほどモミが充実して、むしろ粒は小さくなっていく。ただ小さくなるのは単に小さいのでなく、例えばポン菓子にした時や炊いた時には普通のお米よりずっと大きくなるような充実なのです。単に『形だけの米』を沢山取れれば良いわけではなく、精根込めて身体の悪い人が食べて回復が早まるようなお米を作りたい」
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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