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17haを田押し車だけで除草する
土作りの基本は、
「田から取り出したものを戻すこと」
だと言い、水田でのプラウ耕に思い入れする筆者への気遣いでもなく、
「プラウで生ワラと一緒に深く土を反転するだけでその効果は見えてくるはず」
と言うのだ。
小田川さんは、駆動ディスクを二台目まで使いきった。そして昨年の秋起こしからプラウを使い始めた。
駆動ディスクでも最大限深く起こしてきた。でもワラのスキ込みや反転には限界がめった。プラウには雑草処理能力も期待できた。その効果は今年の草取りの楽さになって現れた。
なにせ一七haの水田である。すべての作業は家族五人が総出でこなしていくが、それでも田押し車で年に二、三回の人力除草は楽ではないと思う。
「でもネ、それが稲を作ることなんだと思ってしまえばやれることです。子供を育てるのが手間がかかるからやめると言う人はいないでしょう。ただ、世間の目を気にして、一本の草も残さないなんて考えたらできません。草は生えるものなんです。収穫できればよいのです」
とはいいながらも、拝見した小田川さんの田に草が目立つわけでない。
「根絶なんてできるわけないけど、続ければ草取りも楽になります。それも待つことができるかどうかです」
病害虫も同様だと小田川さんは言う。イモチで全滅しているような田があるのに、無農薬の小田川さんの田にはイモチがほとんど見えない。小田川さんは、こともなげに「イモチも他の病害もほとんどは施肥の過剰、それに土と作物の生命力の弱さに原因している」と言い、小田川さんの場合、イモチが出たなと思った時には炭の粉末をまくだけだそうである。むしろ、今年は施肥を減らしておくのが前提だという。
「私たちのやり方は、自然の都合、土の都合、稲の都合に合わせてやるのだから、省力性・経済性などといった論理とは矛盾する。人が見たら馬鹿みたいなことをやっている。しかし、現代の稲作技術の標準というのは人間本意の底の浅いご都合主義に過ぎないのではないか。もし、手間や資材費がかかっていたとしても、それは私たちの育てたお米を食べるお客様が払う薬代を減らしていると思えれば、それでよいではないですか。でも、土にかけたお金や手間、かけなかった負担というものは、しっかり財産として残るのです。そしてそれは結果になって戻ってくる。お客様との関係もそうですよ。『何事も手前本意に考えること』『待つことができないこと』が滅びへの原因なんです」
と語る。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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